さんのじゅうろく るるの祈りがGodに通じた

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さんのじゅうろく るるの祈りがGodに通じた

 夜の寝る前のひととき。 るるが俺たちとリビングのソファーに座ってTVを観ていたら、るるの母親が、 「るる、今夜も犬と一緒に寝てもいいわよ。パパ帰らないから」  と言った。  ここ数日るるの父親は帰って来ていなかった。 「やった。みんな、あたしの所で寝るよ」  そう言って、俺たちを両手で抱えて二階のるるの部屋の押し入れベッドに連れて行ってくれた。  一緒に寝る時はいつも、るるは俺たちに絵本を読み聞かせてくれる。 今夜は、俺が大好きな『押し入れの冒険』だ。 保育園でけんかをした男の子二人がお仕置きで押し入れに閉じ込められる。 気づくとそこは、悪いネズミばあさんが支配する世界だったが、 けんかした二人は力を合わせてネズミばあさんの手から逃れてもとの世界に戻ってくるという話だ。 押し入れベッドで聞くのに最高のお話なんだ。 「なかなおりしてよかったね」  るるがそう言って絵本を閉じた。 「わーーーん(ふわーーー)」  アイスがあくびをした。 「「わーーーん(ふわーーー)」」  つられて俺たちもあくびをした。 「ふわーーー、あたしまで移っちゃった」  るるが目に涙をためて言った。 「みんな寝よっか」  俺たちはるるの側に伏せて眠りについた。 とても暖かかった。  人の声で目が覚めた。 母親が誰かと話していた。 「お子さんは?」 「とっくに寝たわ。ねえ、早くこっち来て」 「まったく、着いて早々かよ」 「何の為にメールしたと思う?」 「さーね」 「えっちするためよ!」  恐る恐る、るるを見ると襖に背を向けていて寝ているようだった。 今夜のことをるるに知られなくてすむかと思うと、俺はほっとしかけた。 しかし、るるは起きていた。 背を丸くして何かブツブツとつぶやいている。 「……神様お願いです」  お祈りしているらしい。 父親が留守の間に母親が男とよろしくやってる。 こんな環境、誰だって嫌に決まっている。 そりゃー祈りたくもなる。 「神様、どうかママを助けてください。あたし何でもしますから」  るるは母親のためにお祈りをしていたのだった。  俺はそれを聞いて涙が出た。 あんなにひどいことを言われてきたのに母親のことを想ってお祈りをしているのだから。  ピンポーーーン。 その日から何日か後のこと。るると俺たちがリビングで遊んでたら玄関のチャイムが鳴った。 「わんきゃん(誰か来たよ)」 「きゃんきゃん(怪しい人来たよ)」 「わんわんきゃん(お客さん来たよ)」  るるの母親を追いかけて玄関に行こうとしたら、 「るる、犬をカーゴに入れなさい!」  と、足でリビングに押し戻された。  玄関で応対に出ている母親に聞き耳を立てるけど、今の俺はその様子を見ることはできない。 ここに戻って来て以来、だんだんと以前の耳系スキルが使えなくなっているのだ。  玄関のドアを開ける音がする。 「私、ニュータウン伝導教会から参りました者です」 「あ、宗教の勧誘ならいいです」  母親は素っ気ない態度で応対する。 「ひな子様ですよね。今朝Godのお告げがありまして、貴女様の所へ行きなさいと言われて参りました」  その客は母親の名前を知っていた。 でも、そんなの調べれば分かることだ。 「へー、それはどうも。でも、皆にそう言ってるんでしょ」  母親も同じことを思ったらしい。 「そう思われても仕方ございません。私どももこんなことは初めてなので」 「初めて?」 「そうです。教会始まって以来です」 「そうなんだ」 「まずは私どものリーフレット『Gの奇跡』を読んでいただけないでしょうか?」 「はいはい。読んどきます。じゃあ」  ガチャ。 玄関が閉まる音。  怪訝そうな顔をしながら母親がリビングに戻ってきた。 「変な人」  と言いながらテーブルにそのリーフレットを置いて眺めていた。 るるはその様子をじっと見ている。 そして、 「お祈りが通じた」  とうれしそうに笑ったのだった。  さらに何日か経った昼下がり。  ピンポーーーン。  リビングでるるとおもちゃで遊んでいると玄関のチャイムが鳴った。 俺たちは、いそいそと応対に出る母親について行こうとしたが無言でドアを閉められた。  玄関を開ける音。 「あら、この間の」 知り合いらしい。 「こんにちは。リーフレットは読んでいただけましたか?」  前来た教会の人だった。 応対に出たるるの母親の態度は前と全然違った。 「それはもう。素晴らしい内容でした」  と声をうわずらせいる。 「それはよかったです。今日は直接Godのお話しをしに参りました。よろしいですか?」 「どうぞどうぞ、お上がりください」  リビングのドアが開いてお客さんが入ってきた。  俺たち3兄弟はそいつに吠えついた。 「ガルルルルガウ(入ってくるな)!」 「ワンワンキャン(ここはるるの家だ)!」 「ワンワンガウ(来るなってば)!」  それを止めたのは母親ではなく、るるだった。 「みんな、吠えちゃダメ」  そう言って、俺たちをリビングの隅のゲージに連れて行った。 「わんわ(どうして)?」 「きゅん(なんで)?」 「わんきゅん(なぜなの)?」  みんながるるに不平を言ったが、るるは小声で、 「あの人は神様のお使いなの。ママを助けるために来たの」  と、うれしそうしている。 「わきゃんわん(天使ってこと)?」  俺がるるに尋ねると、 「きっと、ママのことを救ってくれる」  そう言って、るるはその客人を眩しそうに見たのだった。  しかし、俺たちは納得がいかなかった。  何故なら、 「わんきゃわん(変な感じする)」 「わわんきゃん(匂いが全然しない)」 「わきゃきゃんわ(顔が真っ黒だよ)」  今から思えば、その客人はGだったのだ。 るるはわざとGを呼んだのか? 母親を陥れるために仕組んだのか? ボーダーになったるるならやりそうだ。 でも、るるはまだスキルもまだ発現してない幼い子供。  この頃のるるはGの存在すら知らなかったはずだ。 だから、るるは純粋にママのことを心配して神様に祈ったのだ。  Gの奴らは、そんなるるの純真さにつけ込んだのだろう。 神様すなわちGodの頭文字がGであることに(かこつ)けて。 Gならやりそうなことだ。 こうしてるるは、Gを自ら引き入れてしまったのだった。 --------------------------------------------------------------------------- ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。 るるはなんと今流行りの宗教2世でありました。 その損害は財産なんてものではありません。 スター、本棚登録、スタンプ、コメント等足跡を残していただきますと、日々の励みになります。 今後も『すたうろらいと・でぃすくーる』をどうかよろしくおねがいします。 真毒丸タケル
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