いちのご ぱっつん前髪のきらら

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いちのご ぱっつん前髪のきらら

井澤きららは美人だ。学園一といってもいい。 腰までの長い黒髪。前髪ぱっつんだがそれが異様に似合う。 たまに、 「切りすぎちゃったー」 と言ってるときがあるから、もしかしたら自分でやってるのかもしれない。 切れ長の目にすっと通った鼻筋。 透き通るような肌質に小ぶりの赤い唇は妖艶さを湛えている。 上背があるから運動部に頻繁に勧誘されるが、スポーツはまったくしない。 俺もきららがスポーツをしているところを見たことがない。 なのにスタイルはアスリート並みだから学園中が不思議がっている。 井澤きららは優しい。 〆子のことで男の俺ができないことを手助けしてくれる。 一番がトイレだ。流石に俺も〆子と手を繋いで女子トイレに入るわけにはいかない。 そういうとき、きららが代わりに付き添ってくれる。  きららは小学校4年の夏前に転校して来て同じクラスになった。  それまでまでは俺が女子トイレの前まで行って、出口の所で〆子に声をかけ続けていたのだった。 事情を知らない女子たちの蔑むような目に耐えながら。 きららが転校してきたその日の昼休み、 俺が〆子をトイレに連れて行こうとすると、きららが俺たちの所に来て、 「変わるよ」 と言った。 俺は、〆子が初めて会った人間に絶望的な態度を示すことを知っていたので、 気持ちだけ受け取って断ろうとした。 ところがきららは俺の答えを聞かず、〆子の手を俺から奪い取るとさっさと教室から出て行こうとした。 「やめろ!」 俺は叫んだ。必死だった。 今から思うとその時の俺は、他人の手を握る〆子を初めて見て、驚きと不安とで混乱したのだろう。 ずっと〆子を独占してきのにその立ち位置を奪われて、正直、嫉妬もあったかもしれない。 しかし、その時返ってきたのは意外な〆子の心の声だった。 「大丈夫。この人は」 なんのことはない、〆子自身が受け入れていたのだった。 井澤きららは鉱石研究部の部長だ。  今、俺と〆子は鉱石研究部の部室できららが来るのを待っている。時間は朝のホームルームがそろそろ始まるころだ。 俺たち3人は鉱石研究部に所属していて、今年からきららが部長で俺が副部長になった。 といっても3年は俺たちしかいない。〆子はレジャー係だ。 レジャー係は、鉱石採掘などのイベントを企画する係なのだが、 慣例でレジャー係の最上級生は採掘地や調査地を決めることになっていて、 現行は〆子が決める。 ということは〆子の行きたいところになるわけだが、 〆子は端から鉱物など興味はない。俺ときららがいるから所属しているだけだ。 結果、前回の調査地は千葉にある大型テーマパークだった。 どうやら、園内のロケーションが柱状節理など地質学的にリアルにできてるというのをTVで観たらしい。 それで〆子は千葉県北西部の地質学調査という名目をでっちあげた。 それには、きららすらいぶかしがったが、ほかならぬ〆子の希望だったので、 その目論見はまんまと通ることになった。 では、当日みんなでアトラクションに乗りまくったと思いきや、そこは鉱石研究部。 きらら部長を筆頭に部員はただでさえ固い奴ばかりだから、本当に地質調査をして一日過ごしていた。 首謀者の〆子はといえば、生態調査とうそぶいて、 名前を言ってはいけないあのネズミを追いかけまわし、めっちゃご満悦だった。 ガラガラッ! 部室のドアが開いて、きららが入ってきた。 「お待たせ」 急いで来たからだろう、きららは頬を紅潮させ目も少し潤んでいた。 いつ見ても本当にきれいだ。大きな声ではいえないが、そこはかとなくエロい。 「じゃあ、はじめようか」 俺たちがこうして毎朝、毎朝、部室に集まる理由。それはその日の〆子の担当を確認するためだ。 一応仕切りは俺。〆子は俺の手を握って隣に座っている。 「午前中は、何もないね」 今日の〆子の予定は午前中は普通授業で、俺と一緒でいい。 だが、5限目に俺では不適任なものがあった。 「5限の水泳は、きららにお願いします」 「じゃあ、ちょっと早めに迎えにゆくね。ゆい」 すると〆子は心の声で、 「えっと」 と言った。 「何か言いたげです」 きららは〆子の顔を覗き込み、 「あ、察し」 と言った。〆子がホッとした表情をしてから心の声で言う。 「ショウには言えんよ。これは」 それから〆子ときららは俺に背を向けて何やらやりとりして、 きららが 「内緒事、終わり」 と言って俺に向き直った。 「水泳の授業が終わったら、きららに俺のところに連れてきてもらうでおk?」 と俺が言うと、きららが 「了解しました、二等兵殿」 と敬礼して言った。やけに階級が低い俺だった。 抜けや忘れたことがないか、もう一度タイムスケジュールを見る。 「あー、6限古典かよ」 「あれ、ショウって古典嫌いなの?」 「いや、そうでなく〆子が、いてて」 〆子が最高握力で俺の手を握り潰した。いや潰しゃしないが、それくらいの。 「いらねーことべらべら喋んなや」 〆子の心の声の圧が上がる。 「?」 きららが不思議そうな顔で俺と〆子を見比べる。 「いや、なんでもない。そう、あの小野って先生が苦手で」 「なんかわかる。本文と訳文を板書だけする、板書魔王の先生でしょ。眠くなっちゃうよね。あんななら、参考書見ればいいもの」 「それな」 最後にスマフォでおkってなるから眠いのだ。 でも、言いたかったのはそれではない。  体育の後の古典は〆子は必ず爆睡する。 その時俺も一緒に寝られたら何の問題もない。 ところが、今日の5限目、俺は水泳ではない。保健体育で映画鑑賞だ。 保健体育では進度調整とかでたまに映画を見せられる。 大概、先生お勧めの古い映画なので興味がわかない。 おそらくそこで俺は寝るだろう。 ということは、俺は古典の授業中、寝ている〆子の隣でパッチリ目を開けて起きていることになる。 それが問題なのだ。 ならば、映画を観て寝なければいいというだろう。 でも、そう安易に言えるものだろうか。 映画鑑賞となれば教室は暗くなる。興味のない映画は子守唄だ。 そこに昼飯でくちくなった腹。敵はそうやって生徒の9割を眠らせに来る。 俺も敵の攻撃に備えて枕用に大きめのタオルを用意してきた。 これで寝ないなど無理なのだ。  そして問題の古典の授業。俺は〆子の寝言に付き合うことになる。 〆子は寝るとずっと心で寝言を言い続ける。これは小さい時からずっとそうだ。 それは必ず一つの物語で、最初から最後までまったく変わらない。 俺が寝ていれば聞こえる人もいないから、ただの夢だ。 しかし、起きていれば俺は物語の登場人物の一人にされる。 〆子が語る。俺のセリフを待つ。 俺が黙っていると大握力で俺の手を握りつぶしてくる。 だから俺は静かな教室でセリフを言う。どんなに小声でも反響してしまう。 先生がいぶかしげに俺を見る。何でもないですといちいち断らねばならない。 さすがに俺が本当に寝ていればスルーしてくれるが、寝たふりは通じない。 今日はどんな役を振られるか、今から楽しみだ(泣。 ------------------------------------------------------------------------------- ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。 井澤きらら、主要キャラの一人です。今後物語の中心となって活躍していきます。 きららをぱっつん前髪にしたのは、最近女優さんで活躍されてる方いますよね。 そこからです。 もしよろしければお気軽に感想、レビュー等お寄せいただけるとうれしいです。 またスター、本棚登録、スタンプ、コメント等足跡を残していただきますと、日々の励みになります。 今後も『すたうろらいと・でぃすくーる』をどうかよろしくおねがいします。 takerunjp
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