ぜろ 破滅の学園

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ぜろ 破滅の学園

ど、どーーーーーーん! 凄まじい轟音で教室の窓がビシビシと鳴り、地響きとともに校舎が揺れた。 のどかなはずの2限目終わりの休み時間。学園に文字通り衝撃が走った。 「爆発か?!」 「上の階だぞ」 「特進クラスのほうだ」 ベランダにいた男子生徒が手すりから身を乗り出して階上を見る。 「ここにいてね」 俺は〆子の手を離すと、ベランダに出て他の生徒が指さす方を仰ぎ見た。 夏の太陽を遮るほどのもうもうと上がる白煙。それしか分からなかった。 確かに特進クラスの方だが、何が起きたのか。 特進のαにはきららがいる。小学校からの幼馴染で〆子が学園で唯一コミュが取れる女子だ。 今朝も鉱石研究部の部室で会ったばかりで、2限目に実験があるなんて聞いてない。 俺は教室に戻ると〆子に言った。 「ちょっと見てくるから」 俺は教室を抜けて特進αへ向かう。 教室を出る時、 「時間に気を付けて」 と〆子の声がした。 時間? 時間て何だ? 疑問しかわかない〆子の声だったが、 なぜだかそれが今一番大事なことのように感じた。  廊下はすでに避難を始めた生徒でごった返していた。 「慌てないでください!」 先生の叫び声がする。慌てるなと言っても無理だろう。みんな自分の命は惜しい。 3階に上がる階段からは、特進クラスの生徒たちが青白い顔をしながら降りてくる。 中にαクラスの顔見知りを見つけ、その腕をとって、 「青葉さん、何があったんです?」 「移動教室でみんなが出た後、中で怒鳴り声がして、そしたら爆発が」 「きららはどこですか?」 「わからない。でも、最後にクラスにいたのはきららちゃんと、、、、」 と言ったところで青葉さんは後から来た生徒に押し流されて行ってしまった。 「とにかくきららを探さなきゃ」 と思うが、上に行きたくてもこの流れに逆らっては無理そうだ。 廊下の突き当りに螺旋階段がある。ぼろくて普段は誰も使わない。 あっちはαクラスの真下で危険だが、螺旋階段はきっと空いてる。なぜだかそう思った。 俺はそちらに向かうことに決める。 2階の廊下は階段の状況を見た生徒がベランダ側の非常階段にシフトして、空き始めていた。 突き当りにたどり着き重い非常扉をあけると、強い日差しに目がくらんだ。と同時に誰かとぶつかった。 「おや、おさるのジョージ。ゆいは一緒でないのかい?」 熱盛の奴だ。平田航、現れなくていい時に限って現れわれるから熱盛。 「お前、大丈夫か?」 「ああ、なんともない」 「ここから上にはいけるか」 「いけるよ。俺だけだ、ここ使ったの」 「なんでお前だけ」 「さあね。あいつら人が行く方にしか行かない。逆張りしなきゃ大勝利はないっていうのにな」 と言いながら伏目勝ちで前髪をいじる。相変わらず苛つくやつだ。 「きららは見たか」 「あー、井澤ちゃんね。爆発が起きた時はまだ教室の中だったからな」 「そのあとは」 「知らんよ。まあ、あの様子じゃ、死んでるかもよ」 「なんだと」 「そう怒るな。早く行ってやらないと、ホントに死んじゃうぞ。愛しの彼女が」 「う!」 そうだ、たしかに俺はきららにひそかな恋心を抱いている。 だが、誰かにそれを話したことはない。なのにどうして熱盛が知ってる。 「ささ、行った行った」 あざけわらうような態度の熱盛を尻目に俺は螺旋の階段を上に向かった。 「いつか殺す」 と心に念じて。もちろん本気ではないが。 爆発のショックか、鋼鉄の螺旋階段は校舎から剥離しかけてグラグラと揺れた。 3階の非常口と階段の間にかなりの隙間ができている。 だが飛び移れないこともなさそうだ。 俺は勢い付けて飛び、半開きになった扉にしがみついて命拾いする。 その拍子に外壁の一部が落ちて、地面で粉々になるのが見えた。 非常扉から中に入ると目の前が真っ白になった。いや、そこは粉塵に覆われた真っ白い世界だった。 教室の中は爆発で吹き飛ばされたのか南側の壁が大きく崩れ落ち、天井が抜けて太陽の光が差し込んでいた。 俺はきららを探した。 ただ、床の上は粉塵と瓦礫が散乱しているばかりで人らしきものは見当たらない。 もしや、もう教室を出た後だったかもしれない。 「きらら!」 名前を読んでみる。返事はない。もう一度、 「きらら!」 今度はもっと大きな声で。すると教室の奥の方から、 「ショウくん?」 ときららの声がした。虫の鳴くようなか細い声だった。 声のした方を見ると教室の一角に白くて巨大なオブジェが出来ていた。 教室中の机や椅子がめちゃくちゃに山積にされている。悪趣味の極みだった。 「きらら!」 「どうして?」 その中からきららの声はした。 「きらら、今出してやる」 俺はその机や椅子を片っ端から引きはがし、きららを探した。 何度も何度も何度も、机を取り除き椅子を放り投げ山を崩してゆく。 粉塵が舞い上がる。せき込む。えずく。目と口の周りがドロドロになる。 それが永遠に続くかと思った瞬間、掌が見えた。指に十字石の指輪。きららだ。 俺が誕プレであげたのをしててくれたんだ。 俺は集中的にその場所にかかって、机や椅子の下敷きになったきららを明らかにした。 そして白粉をまぶした顔を見た時、俺は思わず嗚咽した。 きららの頬が斜めに割れ粉塵と混じった血液の塊が泥のようにこびりついていたのだった。 美しい顔だった。見ているだけでよかった。きららは学園一の美人と言われていた。 その顔にこんな傷が。 俺は耐えられずそこにうずくまって泣いた。 細い声がした。 「ショウくん。なんで?」 と言って俺を見たその目が心なしか怒っているように見えた。 「ごめんよ。遅くなっちゃったね」 その瞳が切なく潤んでいた。 「ゆいちゃんはどこ?」 「〆子は教室で待っててもらってる」 「一緒にいなきゃダメじゃない」 きららの目から涙が零れ落ちた。頬に赤黒い跡がつく。 少しして、きららは小さく息をすると言った。 「そっか、ショウくんが来たのは回転なんだね。なら、まいっか」 俺はもっと歓迎されるかと思った。これじゃあ、助けに来たのが迷惑だったみたじゃないか。 しかし、次の瞬間奴らが現れて、俺の頭からそんなことすべてが吹っ飛んだ。 「来たよ。両手両足折られちゃったから助けてあげらんない、ごめんね」 そういえばきららの手足はおかしな方に曲がっていた。 右腕に至っては、黒ずんで言うに堪えない状態だった。 「でも安心して。エントロピーは最後はこっちの味方だから」 味方か敵か知らないけど、今のこの状況がエントロピー極大なのは確かだ。 奴らは、目の前に現れた存在は、あまりにも気味が悪かった。 何人いるのか、いや何匹なのか。廊下から、ベランダから壁を伝ってワラワラと教室に入ってくる。 そいつらは、全身ヌメっとした質感の服をまとい、 蜘蛛のように長い手足を四つん這いにして身をかがめ、じわじわと俺の周りに蝟集してくる。 まるであのGのようではないか。おれは全身身震いがするのに耐えながら、そいつらの挙動を見守った。 顔にはそこにあるはずの目鼻など無く、漆黒より黒い黒色で覆われていて光を全く逃がさない。見ていると引き込まれそうになる。 その口のあたりから真っ赤な舌を出し、べろべろと顔の前の虚空を嘗め回すその姿には、戦慄しか覚えなかった。 「なんだこいつらは」 答えを待ったが、きららは既に目を閉じて、石膏像のように動かなくなっていた。 まさか、そんな。このあいだ18歳になったばっかじゃんか。 みんなで一緒に卒業するんじゃなかったのかよ。 しかし、そんな感傷に奴らは構ってはくれなかった。 蝟集の輪がどんどん縮まってゆく 俺はなすすべなく、教室の壁に追い詰められる。 奴らの中の何匹かが俺の四肢を捕らえる。 すると、奴らの一匹が俺の上にのしかかってきた。 そいつは骨ばって細長い指をした掌を俺の腹に乗せると、 ものすごい力でそれを押しつけ俺の腹にずぶずぶと差し入れて来た。 痛みはない。血も出ない。 しかし、全身の力が抜けそれまで張っていた気力もなくなり、すべてがどうでもよくなっていくことに抗えなかった。 「何をしてるんだ」 腹の中をまさぐられる感覚がある。腹から胸のあたりに奴の腕があるのが分かる。 そいつは弄んででもいるかのようにしばらくそうしていたが、 再びその手に力を込めたかと思うと、おもむろに俺の腹から手を引き抜いた。 俺の腹の皮には傷一つできていなかった。 そして、奴の手には黒汁が滴る何か丸いものが握られていた。 言葉ではない歓喜が、奴らの中に広がるのが分かった。 「黒汁丸」を手にした奴は勿体を付けるように、 周りの奴らにそれを見せつけてから、 口のあるべき場所に持っていくと、真っ赤な舌をそれに突き刺して、 ズルズルと音を立てながら中の何かを吸い出した。 俺の中の何かがとろけて行く。悔悟の気持ちが湧いてくる。 これですべてがやり直しだ。 もっとうまく立ち回れなかったか。 おれのムーブがもっとファンタスティックなら、 えぐい武器を持ってたら、 目の覚めるようなエイムがあったなら、 きららはあんな風にならなかったのか。 奴らが撤収する後姿を見ながら、自分の情けなさに涙がこぼれだす。 いや、これはバトロワゲームじゃない。リスポーンなんてない。 やり直しなんて効かないリアルな世界なんだ。これですべてが終わりなんだ。 ひりつくような後悔の念に苛まれながら俺は暗黒の底へと落ちて行った。 ----------------------------------------------------------------------------- ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。 ちょっと、過激な導入でした。これからここに登場したキャラを中心に物語は進んでゆきます。 もしよろしければお気軽に感想、レビュー等お寄せいただけるとうれしいです。 またスター、本棚登録、スタンプ、コメント等足跡を残していただきますと、日々の励みになります。 今後は週に4回(火木PM8時、土日AM8時)の割合で更新てゆきます。 今後も『すたうろらいと・でぃすくーる』をどうかよろしくおねがいします。 takerunjp
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