いちのじゅうに 重力螺旋爆攻のきらら

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いちのじゅうに 重力螺旋爆攻のきらら

4限目が始まる前に、きららがまた来た。 今日はよく〆子に会いに来る日だ。もう勘違いはしないが。 きららが教室に入って来るなり康太を見て言ったのは、 「でか!」 だった。 康太の頭のお鉢って、やっぱ大きくなってるよね。 「なにがあったの?」 ひそひそ声で、代わる代わる俺と〆子を見ながら言うその表情は、 楽しそうだった。 きらら、鬼畜か? 康太辛そうだし。 「Gが来た。康太の頭に何かした」 「あー、ね。苦戦してるからね」 「え?」 「ゆいちゃん、借りて行くね」 と言って、俺の許可なんか眼中なさげで、さっさと〆子の手を引いて教室から出て行った。 朝の打ち合わせはいったい何だったのか。まあ、忙しそうだからいいけど。 俺は廊下を行く二人を見送ったあと、前の席の康太を見た。 何か描いてる。どうせ武器の絵だと思って背中越しに見ると、 それはきららを描いたイラストだった。顔はさすがによく特徴をとらえてそっくりだった。 でも、そのきららの体はどこかあのGに似て、おどろおどろしげな怪物になっていた。 そういえば康太はいつも、 「俺、女怖いんだよね」 って言っていたのを思い出す。 康太、お前にはきららがそんな風に見えてたのか? そりゃあー、怖いわな。 4限目のチャイムが鳴ったが、担当の岩丹羽先生はなかなか来なかった。 岩丹羽先生は、授業に遅れて来るので有名だ。前など30分も遅れて、 「すまん。図書室で調べものしてたら遅れた」 と言った。本当は図書準備室で昼寝してたのだった。 ただ、それを見越してなのか、きららと〆子も戻ってこなかった。 また部室にでも行ってるのかと思っていたが、どうやらきららは今度も忙しいようだった。 というのも、 「ぼわ」 が、チャイムが鳴ってしばらくして聞こえて来てたから。 ただ、その 「ぼわ」 が、2限目の時よりも、なんだかテンポが早かった。 「ぼわ」シャ「ぼわ」シャ「ぼわ」シャ。 シャは楽譜で言う小休止ぐらいの間だ。 いやまて。小休止ならウンだろう。 「ぼわ」ウン「ぼわ」ウン「ぼわ」ウン。 のはずだ。じゃあ、シャって何? おいおいおいおい、康太おまえ! 康太の頭がどんどん大きくなっている。加えて頭髪を押しのけるほど頭皮血管が太くなってドクドクと脈打ってた。 めっちゃグロいマスクメロンみたい。 さらには、周囲がGが現れた時のような陽炎で揺らめいている。 そして、シュ。すると同時に康太の手元から画用紙が飛び出してくる。 「ぼわ」シュ!画用紙。  「ぼわ」シュ!画用紙。 「ぼわ」シュ!画用紙。 「ぼわ」シュ!画用紙。 康太は画用紙に次々に何かを描いては、脇に捨てているのだ。 周りの床に溜まってゆくイラスト、イラスト、イラスト。 そして、それは全て違う、めっちゃえぐい武器腕のイラストなのだった。 火炎放射もある。プラズマガンもある。さらにロングライフル状のも、ミニガンで弾帯が垂れ下がってるのもあった。 かなり凝ったそれらの武器腕を康太は1秒もかからず描く、しかも完璧に。 俺は「ぼわ」の音のする方に聞き耳を立てて、きららを探す。 「ぼわ」の発信地は特進αかと思ったら、意外に近く廊下だった。 廊下の端の、ゆらゆらと陽炎が立つ中にきららはいた。 そのきららが腕を虚空に突き出す。 「ぼわ」 きららの前腕に武器腕が生える。俺にはそう聞こえる。 シャ! きららの武器腕が消え、腕が黒く変色し、ねじれた先端から黒い滴りが落ちる。 腕を虚空に突き出す。 「ぼわ」 違う武器腕が生える。 シャ! 黒い滴りが落ちる。 その繰り返しだ。 康太を見る。さらに陽炎が激しくなってきて、俺はひりつく頭痛に襲われる。 康太の机からイラストが飛び出す。なるほどそれはきららが今装着した武器腕だった。 「ぼわ」 シャ! その間、およそ1秒。 (これ、康太くんの仕業なんだよね) 俺はやっと気が付いた。 康太は、きららの武器腕をんだ。 なるほどパクリ絵師の本領発揮ってわけか。 きららの緊張が俺の耳に伝わってきた。 きららに聞き耳を立てる。 きららが廊下の端からこちらに向かって走り始めていた。 その間も、 「ぼわ」 シャ! は続いている。 今度はきららの走る先に聞き耳を立てる。 きららは何に対峙してる? 敵は何者なんだ? きららの行く先、廊下の反対、突き当りよりも少し手前。 ……〆子が立っていた。 まさか。きららの相手は〆子? きららは壁をけり空を奔って、反対の壁、さらに天井、再び反対の地面と、螺旋を描いて駆ける。 すごい速すぎて、俺の耳も付いてゆくので精いっぱいだ。 ものすごい衝撃波が、俺の教室の前を通り過ぎ、窓ガラスがビシビシと音を立たあと砕け散った。 きららがジャンプ一閃! その間もひっきりなしに、 「ぼわ」 シュ! 「ぼわ」 シュ! だ。 そして、きららが〆子に切迫する。 シュ! 「ぼわ」 の、その一瞬、何者かが空間を引き裂いてきららの目先に現出した。 そこに、きららのプラズマガンがさく裂!  その者の存在を刹那に消し去った。 きららが、廊下に着地する。 その斜め後ろに〆子が立っていた。 すかさず、きららが〆子に駆け寄り抱き着くと、 「ゆいちゃん、ありがとう!」 「ふん」 〆子の顔が満面の笑みに変わった。    教室はすでにカオス状態に陥っていた。 しかし、それは暇を持て余したからでいつもの岩丹羽前と同じだった。廊下の窓ガラスも割れてはいない。 康太は? グーグーグー。 眠りについていた。頭の鉢はさっきより少し大きくなったかもだけど、 マスクメロンは治っていた。あのイラストの山も消えていた。 ガラガラガラ。 教室の前のドアが開く音がした。 「岩丹羽先生、事故に遭われて今日の4限目の授業、休講でーす」 クラス委員の中根さんだった。 「「「「「いえーい!」」」」」 クラスが沸いた。お前らも鬼畜だな。いえーい! ------------------------------------------------------------------------------- ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。 康太辛そうです。 もしよろしければ、ハート、★、コメント、ブクマ、レビュー等いただけますと 日々の励みになりとてもうれしいです。 次の公開は、 10月13日(火)PM8時 です。 今後も『すたうろらいと・でぃすくーる』をどうかよろしくおねがいします。 takerunjp
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