にのいち 母、スタウロライトリングを作る

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にのいち 母、スタウロライトリングを作る

「海藻サラダが残ってるぞ。条時ショウ」 毎朝、毎朝、母さんが言う。 なぜなら毎朝、毎朝、海藻サラダが食卓に載るからだ。 しかも、サラダボール山盛りの。 それを全部食べろと言っているのだ。 逆らうと必ず、リビングの棚の写真を指して、 「ああはなりたくないでしょ」 と言う。 俺は大急ぎで海藻サラダを掻き込むとカバンを持って玄関に向かう。 時間がない。 「ショウちょっと待ち」 時間のない時に限って、母さんが絡んでくる。 「何?」 「あんた、サイズ聞いて来たの?」 「何の?」 「指輪」 「あ、忘れてた」 俺は、来月のきららの誕プレに、前から欲しがっていた十字石の指輪を送ることにした。 でも、アクセサリー屋ではとても買えないから、アクセサリー創りが趣味の母さんに作ってもらうことにしていた。 もちろんきららへの誕プレとは教えずに。 で、サイズだ。指輪ならサイズ分からないと作れないと言われて、きららから聞かなくちゃいけなかった。 誕プレならサプライズだ。どうやって聞くかが問題だった。 「母さんも、時間ないからね。早くしないと間に合わないよ。誰にあげるのか知らないけど」 「わかった。今日聞いてくる」 「一か月しかないでしょ。きららちゃんの誕生日まで」 バレてんのかい。 ・・・・・ちょっと待て。きららの誕生日は7月7日、今日じゃないか。 どういうことだ?  俺は昨日めっちゃ「しんどい」一日を過ごしたはずだ。 朝、〆子と学校行き、  地下鉄で岸田森林に会い、  校門で熱盛にウザがらみされ、 1限目、あいちゃんの授業で度肝を抜かれ、 2限目、康太の頭がでかくなり、 3限目、きららの腕が黒くなったり武器になったりし、 4限目、Gに腹を探られ、 お昼休み、中根さんのお耳が銀色のダンボになり、  きららを飛ばし、  あいちゃんに弾丸の雨をお見舞いするのを見、  ザクロちゃんに自己紹介され、 5限目、慈恩の壁にやられそうになったところを岸田森林に助けられ、 6限目、古文の小野先生に指名されたきららを飛ばし続けてたら、  魔王崇徳院の殺人光にやられた。光の中にはGがいっぱいいて、  俺の「エントロピーの種」は奴らの手中にあった。 なんなんだこれは? ひどすぎるだろ。 最後のきららの言葉が耳に残っていた。 「繰り返すの」 そういうことか。 「「なかったことにされる」」 〆子ときららの声だ。 つまり1か月前に戻されて、なかったことにされたのか。 俺の1か月を返してくれ!  ・・・あ、特になーんもなかったか。 そういえば、俺が1か月後から戻ってきたって母さんは気づいてるだろうか。 母さんの顔を見てみる。 「何?」 「いや、何でもない」 いつも通りみたいだ。 母さんにはこのことを黙っておいたほうがよさそうだ。 もし俺がこの日は2度目だなんて言ったら、リケジョの母は目を輝かせて、 「何々? 面白いこと言うね」 って、興味津々、根掘り葉掘り聞いてきたうえに、 「条時ショウ、ウチの研究所来て、検体になんなさい」 とかって言いだすに決まってる。マジでコワい。 〆子やきららはどうなんだろう。 あいちゃんの時は3人まとめて戻されたけど、今度は俺だけ戻されたんじゃないか? 崇徳院の殺人光を浴びて漆黒の谷に落ちる前、 俺は〆子ときららを他所に飛ばした。 そのまま逃げていてくれれば、助かっててもおかしくない。 「いってきます」 「ちゃんと、聞きだしてきてね。どうやるか見ものだけど」 笑ってるし。 「分かったよ」 「はい、今日のタロットは6番。恋人だって。ヒューヒュー」 「はいはい」 俺は玄関を出た。 ここから見える風景は「昨日」と何の変化もなかった。 空は青く、6月の風は涼しげだ。 ただ木々の緑が、真夏の「昨日」に比べると、初夏の「今日」は黄色みがかって見えた。 ------------------------------------------------------------------------------- ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。 2章の始まりです。 お母さんはショウの恋愛の行方に興味津々。 もしよろしければお気軽に感想、レビュー等お寄せいただけるとうれしいです。 またスター、本棚登録、スタンプ、コメント等足跡を残していただきますと、日々の励みになります。 今後も『すたうろらいと・でぃすくーる』をどうかよろしくおねがいします。 takerunjp
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