にのさん きらら、メンチを切る

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にのさん きらら、メンチを切る

部室での打ち合わせを終えて、俺たちは教室に向かった。 教室棟へ向かう渡り廊下を3人で歩いていると、 「てめーはしつけーんだよ!」 と怒鳴り声がした。 生徒用玄関のほうからだった。 いつもなら、ホームルームが始まる寸前なので生徒はいないはずだ。 教室棟に入って生徒用玄関を見るとは、今度は どっかーーーん! 小規模爆発のくらいの音がして、下駄箱列の間から人ほどの大きさの物体が飛び出してきた。 その物体は重力0状態の慣性の法則のまま すーーーー。 と、ちょうど低空50センチくらいのところを並行に流れて行くと、 反対側の壁にあたって止まり、 「ぐえっ」 と言ってくずおれ落ちた。 よく見るとその物体は北沢慈恩で、口から泡を吹き失神している。 「3軍が!10億G年早えーんだっての」 その慈恩に悪態をつきながら、下駄箱列から出て来たのは、 ピンクの髪にリボンをいくつも可愛く結び、左手で電子タバコをふかし、ぺったんこのかばんは肘から下げている。右手にはスワロフスキーでデコった木刀を持って、学園の制服の上にロングカーディガンを肩で着、スカート丈は超ミニで、流行ってんのか知らんがルーズソックスにでっかい花飾りのついたビーサンを履いている。 学園最強にして最恐、特進βで番を張る超絶美少女 京藤(きょうとう)くるみ だった。 こんなやばいのに朝っぱらから鉢合わせするのはゴメンしたいので、俺が足早にそこを離れようとすると、 〆子の心の声が、 「ジッとしてろや、二等兵殿」 と言って動かない。 そこはちょうど、特進教室に上がる階段の下だから、 いやがおうにも京藤くるみはこちらに向かって歩いて来る。 そして、行く手を阻む俺たちに、ものすごい形相でメンチを切り出した。 【くるみちゃん伝説その1】 「駅でメンチ切ってきた他校の女番をメンチ切り返して3秒で失神させた」 俺は気が遠くなりそうになって、そっこー目をそらすと、 反らした側にはきららがいて、今そこにある危機に向かって メンチ切ってた! あご突き出してイノキになってるし。 「やんのか? ごらぁ」 きらら、やばいって、危険だって。 そう言ってる間にも、くるみはずんずんこっちに近づいて来る。 しまいにはきららと額を合わせて、 「あーーー? おはようございますだな、α組の姐さんよ」 「これはこれは、β組のお嬢。ご機嫌うるわしゅーございますこと」 今思い出したけど、こっちの世界ではきらら、 特進αで番、張ってます。 二人の顔の間に、にゅうっとデコ木刀が突き出て来たかと思うと、 ぼわ! きららの腕が釘打ち黒バットになってそれを押し返す。 「「アルファベット戦。逃げんなよ」」 と二人同時に言うと、 バチバチバチ! 火花が散って、二人は数メートル後ろに飛びしさった。 俺は〆子の手を引いて後ろに下がる。 きららの額から一筋の赤い血が流れ落ちた。 くるみは左手で右手の二の腕を抑えていて、その指の隙間がみるみる赤く染まってゆく。 それ以上に目立つのは腕に彫り込まれた幾つものお星さま。 【くるみちゃん伝説その2】 「くるみの腕の★のタトゥーは、これまでぶっ潰した高校の数。現在31スター」 高まる緊張。バコバコと心臓の音がうるさい。 二人は間合いを詰めぬままじりじりと横に動いてその場で円を描く。 その時、くるみの態勢が崩れた。見ると慈恩がくるみの踵にしがみついている。 「俺の言うこと聞けって。配信で金ならある。何でも買ってやるから」 慈恩は鷲掴んだ万札の束をくるみのカーディガンのポケットに捻じ込もうとする。 「だーーーー、うぜえんだっての!」 と叫ぶと、 どっかーーん! 慈恩を一蹴り、先ほど以上の爆発音を響かせた。 再び、低空50センチを重力0の慣性のまま廊下を遠ざかってゆく慈恩。 廊下の最果てでおそらくは、ぐえ!とか言ってるだろうがここからは聞こえなかった。 ピンクの頭から猛烈に湯気を立てていたくるみだったが、こっちに振り返ると、 「ったく。じゃ、続きはアルファベット戦でな」 と言うなり軽やかな足取りで階段に向かった。 そして1段目に足を掛けたところで振り返り、 「ゆい、その髪イケてんぞ!」 と言って指でハートを作ると、階段を勢いよく駆け上って行った。 それを唖然と見送る俺。 きららは、 「くるみちゃん、今日も元気だったね」 と〆子に言うと、 「ふん」 〆子も機嫌よさげに頷いた。 俺はカバンからキムワイプを出して、きららの額の血を拭きながら、 「アルファベット戦っていつやるの?」 「えっと、さ来週だったかな」 きららは口元に残った血を舌で一舐めして楽しそうに言った。 特進は不定期に入れ替えテストを行っている。 それは特進の生徒全員参加して試験を受け、その結果でα5人とβ5人が入れ替わる。 これを特進入れ替え戦と言う。 この試験は学園内でも非人道的で有名で、 「勝って残れば華、負けて変われば泥」 の世界で、結果を理由に何人もの生徒が学園を去った。 ただし、この試験から除外されている4名がいる。 それが、 特進α女子 井澤きらら 特進β女子 京藤くるみ 特進α男子 熱盛こと平田航 特進β男子 神河勇気(初出) だった。 で何が起きるかと言えば、当然αとβの上等争いだ。 男子の2人は 「どっちでもいいや」 という態度なのだが、女子のきららとくるみ、特にくるみが、 「なんでβが下なんだよ。世の中のシステムβ版ばっかだろ。βが優れてっからじゃねーか」 たしかにβであり続けるのは、修正&改編がスムーズにいくし、ベターな状態ではある。ダジャレではないゾ。 しかし、それはあるふぁべきαへ向かう途上段階であって・・・・ ともかく、特進の生徒全員で「じゃあ上等戦しよう」ってなったらしい。 それをアルファベット戦という。どっちのクラスが上等か決める戦いだ。 現在はαが上等クラスということになっている。 ただ、それは前回のアルファベット戦に、αが勝利を収めたからで、 それ以前はGW前の戦いにβが勝ってからずっと逆転していた。 因縁浅からぬ特進αβなのだ。 そして、さ来週アルファベット戦が行われると言う。 これは見物に行かねばなるまい。 「場所は?」 「体育館裏」 幾多の死闘が繰り広げられ、特進の生徒たちが勝負を決してきた場所。 荒野の風が吹きすさび、赤い砂埃が舞い、タンブルウイードが転がっている。 びゆうぅぅーーーー! ころころころ・・・・。 あ、あそこ転がってくの、慈恩じゃね? ------------------------------------------------------------------------------- ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。 新キャラ、京藤くるみの登場です。いかがでしたか? 彼女ときららの今後の対決をお楽しみに。 なんだか異能力バトルがケンカ上等ヤンキー対決になってきましたが、 これもおそらくGの仕業。絶対に許せません。 もしよろしければお気軽に感想、レビュー等お寄せいただけるとうれしいです。 またスター、本棚登録、スタンプ、コメント等足跡を残していただきますと、日々の励みになります。 次回の更新は 10月25日(日)朝8時 になります。 今後も『すたうろらいと・でぃすくーる』をどうかよろしくおねがいします。 takerunjp
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