にのよん くるみ、夜の街でゴロをまく

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にのよん くるみ、夜の街でゴロをまく

今日は何にも起こらなかった。 出だしのインパクトが強かったから、さてはーって思ってたけど拍子抜けした。 いつもは何にもなくても部活に行くのに、今日に限って〆子は 「部活、バックれっから」 と言って、帰りのホームルーム終わったらそのまま下校した。 で、学園最寄りの地下鉄駅で電車が来るのを待っている。 電車が校内に入ってきた。 わんわんと響き渡る電車の走行音の中で、人の叫び声を聞いた気がした。 電車が止まりドアが開く。 〆子の手を引いて中に入ろうとすると、階段の方から人の叫び声が聞こえた。 今度のは気のせいではなかった。 見ると、京藤くるみとそのカバンにしがみついた慈恩が車両に乗り込むところだった。 「行くぞ。二等兵殿」 俺は驚嘆した。 〆子が電車の中を歩き出したから。 中学入学と同時に電車通学初めてこのかた、〆子はこの一番後ろの車両の端っこの隅から一歩も動こうとしなかった。 「ちょっと、どうしたの?」 「いいから付いて来いや。二等兵殿」 これも高校デビューの影響なら、悪くないかもと思った。 くるみたちが乗ったのは先頭車両に近かったから、〆子と俺は車内を結構歩かねばならなかった。 2駅くらいを歩いて電車が止まると、〆子の心の声が、 「降りるぞ」 と言って、そのままホームに降りてしまった。 俺も引きずられるようにホームに降りる。 進行方向を見ると、くるみもホームに降りたところだった。 すかさず、 どっかーーーーん! と改札のほうから音がしたと思ったら、低空50センチをこちらに向かって飛んでくるのは、やっぱり慈恩。 慣性そのまま俺たちの横を通り過ぎ、ホームの端の柵に絡まって止まった。 電車の通過音で聞こえなかったが、多分 「ぐえ!」 とか言ってるんだろう。体大事にな。  階段上がって外に出ると、まだ5時を回ったばかりだから、さすがに明るかった。 〆子と俺はくるみの後を追うようについてゆく。 こんなところに商店街がっていうような裏路地に出た。 「商店街」 とだけ書かれたくすんだアーチがある。その向こうは商店街のアーケードだ。 そこをくるみは進んで行くのだったが、俺は〆子の手を引いてしばし足踏みした。 「何ビビってる」 「ちょっとだけ待って。心の準備するから」 というのも、そのアーチの向こうだけ他とは異なり、ネオンが輝く夜の街で、さらにアーチの下から陽炎が立ち上がっていたから。 意を決して、アーケードへ進む。 「聞いてろな」 〆子の心の声が言う。 もう、何をとは聞き返さない。 俺は思いっきり聞き耳を立てて、くるみの足音を追った。 足音が止まる。 コンビニの前に数人のG色のスーツを着たう男がうんこ座りしながら屯っている。 俺には蚊の鳴くような電子音がしていて近づくのもいやな感じだが、この男たちには気にもならないらしかった。 じじーなのか? 「くるみじゃねーか。はくいチャンネーでも探しに来たか?」 コンビニうんこずわり団の中から声がかかる。 くるみはそれをガン無視して通り過ぎる。 すると中の一人が進み出て、くるみに近づいていった。 「あ? シカトか?」 と肩に手を掛けて振り向かせようとしたところ、くるみの背中あたりで何かがきらりと輝き、 ガキ! 周囲にキラキラキラと星が散ってその男はその場に倒れ伏した。 くるみの右手にスワロフスキのデコ刀が握られていた。 デコ刀の刀身がギラギラと光を放っている。 その光は朝の学校よりも夜の街のほうが妖艶な色をしていた。サタデーナイトフィーバー的な? パルプフィクション的な? 突然、くるみはその場にしゃがみ込んだ。そしてせわしなく何かを拾い出す。 「たく、スワロフスキたけーんだから、使わすな。一粒いくらだと思ってやがる」 さっき男の頭上でキラキラしてたのは、デコ刀から剥がれ落ちたスワロフスキだったのだ。 くるみはそれを一粒残さず丁寧に拾ってゆく。 「「「ふっざけんな」」」 それまでニヤニヤ笑っていたコンビニうんこずわり団が一斉にくるみに襲い掛かる。 【くるみちゃん伝説その3】 「ゴロ巻けば無敗。只今300連勝中。向かっていくのはバカかチンカス」 ガガガン!キラキラキラーーン!!パラパラパラ。 案の定、3秒経たぬうちにその場に4人のバカかチンカスが失神していた。301勝目ってことかな。 くるみは、再び地面にしゃがんでせっせとスワロフスキを拾い集めている。 〆子が近づいて行って、一緒に拾い始める。 「ゆい。いいぞ心配しなくても。今日こそきっと連れ戻すから」 「ふん」 〆子が拾い集めたスワロフスキをくるみの掌にのせる。俺も2粒だけ拾って渡した。 「あんがとね」 それを受け取ると、 「よっこらせ」 とくるみは立ち上がり、再び夜の街へと歩みだした。 風がビューと吹いて来た。初夏にしては生臭い嫌なにおいがした。 「俺の言うこと聞いとけばいいんだって」 慈恩がいつの間にか側に立っていた。 その言葉は俺と〆子などまるで目に入らないかのような、でっかい独り言なのだった。 そして、慈恩はころころと転がりながらくるみの後を追いかけて行った。 遠くで再び、 どっかーーーん! まあ、そうなるわな。 くるみはその後も、相手かまわず吹っ掛けられたケンカを受けては、連勝街道を突き進んでいた。 俺と〆子もその後をついて行くが、くるみはただケンカをしているのではなさそうだった。 探し物?でもしていそうなのだ。 時折、立ち止まっては、デコ刀の先で無造作にそこらをつついてみて、歩き出す。 また、バカやチンカスの相手をしては、連勝記録を塗り替えて行く。 くるみがやばそうなのにいちゃもんを付けられた時もあったが、 くるみは造作なくそいつのことものしてしまった。ケンカ上等なのだ。 ただ、さすがに陽炎を背負ったような奴が相手の場合は、くるみの戦い方が変わった。 そういう場合のくるみは、デコ刀を前ではなく後ろ刃にして自分の背後に斬撃を加えた。 すると、背後の空間に漆黒の切れ目が出来て、そこから出て来たものを使って相手を倒すのだった。 〆子の心の声がいう。 「ボーダー流のやり方だ」 なるほど、空間を切り裂きそこから何かを呼び出すのは、古典の小野と同じだった。 ただ、くるみが呼び出しているのが何なのかは俺の耳だけでは分からなかった。 その時俺は気づいてしまった。 ということは、今度のアルファベット戦も、実はストライパーVSボーダーの戦いってことになるのか。 もしきららが負ければ再びどっかに飛ばされてしまうのか? そういう覚悟をしなければならないことが想像されたのだった。 半ば遠足気分であったことを俺は反省した。 ------------------------------------------------------------------------------- ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。 くるみの戦闘シーンを中心に書きました。 めっちゃつよいんです。 もしよろしければお気軽に感想、レビュー等お寄せいただけるとうれしいです。 またスター、本棚登録、スタンプ、コメント等足跡を残していただきますと、日々の励みになります。 次回の更新は 10月27日(火)20時 になります。 今後も『すたうろらいと・でぃすくーる』をどうかよろしくおねがいします。 takerunjp
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