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にのろく 俺、きららと〆子にばっくれられる
放課後、俺と〆子は鉱石研究部の部室に向かう。
「なんか、匂うね」
部室棟の廊下に誰かのお弁当が腐ったような匂いが漂っていた。
部室のドアの前に来るときららの声が聞えてきた。
「それは持って帰ろ、ね」
なにか困ってる様子。匂いも中からのような。
ドアを開けて中に入る。
「んちわ」
くっさーーーー!
何の匂いって、硫黄臭が部室に充満していた。
テーブルの真ん中には、巨大な岩石の塊が、その向こうにきららがハンカチを鼻に当ててこっちに助けを求める目を向けていた。
「「「あ、せんぱい、こんにちはー」」」
藍銅鉱のような紺青の瞳が一斉にこちらを見てきた。
三人同時のご挨拶は、うちの部員の猫田三姉妹。
ミケちゃん、クロちゃん、トラちゃんの三つ子ちゃんだ。
当然名前はそんな「けもの」のはずはないわけで、
「「「皆さん見分けがつかないでしょうから、あたしたちこの猫耳つけてるんですぅー」」」
と、紺色ボブに常時猫耳カチューシャをつけてくれてて、それがそれぞれの呼び名に合致する。
そういう心配りが出来るのに、何かと言うとでっかい鉱物を部室に持ち込みたがる。
ただでさえ狭い部室なのに、必ず巨大な岩石を持ってくる。
しかも鉱石のことまだあまり知らないから、結構デンジャラスなものがあったりする。
「これ岩石に硫黄が付着してるやつだよね。こんなのどこで取ってきたの」
「「「あ、箱根の大涌谷です。100kgあります」」」
「そんなところから持ってきちゃまずいでしょ。ここに置けないから持って帰ろ」
「「「えー、せっかく持って来たのにー」」」
「でも、見て。部長白目むいてるでしょ」
「「「ホントだー。やぱりダメな感じですかね」」」
「うん。ここには置けないと思う」
「「「じゃあ、持って帰りますぅーーー」」」
「あ、台車出すよ」
「「「いいです。来るときも私たちだけで持ってきましたからーー」」」
というなり、猫田三姉妹は硫黄岩石の下の帆布袋の取っ手を持って、机の上から岩石を引きずり落した。
ドッゴーン!。ズーールズーールズーール。
部室を出て行く猫田三姉妹に声をかける。
「学校までどうやって持って来たの?」
「「「パパの車です、パパの車です、パパの車です、車です、車です、車です、です、です、です」」」
部室楝の廊下を、やたらめったら反響しながら答えが返ってきた。
急いで、窓を全開にする。
「はー、死ぬかと思った」
きららが涙目で言った。
コーヒーを入れて、持ってたポテチでお茶をする。
「なんかコーヒーまで匂うね」
「ホントだ。捨てよう」
結局ペットボトルのお茶にした。
「やっぱ、アルファベット戦後があやしい」
きららが、ポテチの指を濡れティッシュで拭きながら言った。
「ふん」
〆子も同意らしい。〆子は指を舐っている。
「回転のこと?」
「そう。前回はくるみの必殺技にあたしがやられちゃって、αが総崩れになって、半月前にぶっ飛ばされたんだけど」
しらっとすごいことを言ってる。
「アルファベット戦を勝ち抜いた先にあの日があるのだとしたら・・・」
「え、ここもぶっ飛ばされた後の世界なの?」
「そうだよ。30回以上この半月を行き来してる」
「そんなに?」
「3勝32敗。くるみが強すぎるんだよね。しかもあの子今必死だから」
「くるみちゃんサイドになんかあるの?」
「みいが危ない」
〆子の心の声が言う。
「このままでいるとみいの命がが危ない。だからくるみは必死で時間を巻き戻しに来る」
「みいって病気でも?」
「違うの。6月中に存在が消える可能性がある。Gの毒が限界まで回って」
「え、それってどれくらいの確立で?」
「五分五分だ」
と〆子。
「それも繰り返しの中で知ったこと?」
「ううん。あたしたちだってこの世界の未来のことは分からない」
「じゃあ、どうして?」
きららが〆子の顔を伺うように見ながら言った。
「ゆいちゃんがそういうから」
〆子が? どいうこと?
俺は生まれてこの方、ウンコを踏んだことがない。鳥のフンを食らったこともない。
正確には5才前の記憶はないから、それ以降ってことになるが。
「やっべー、踏むとこだった」
「ギリセーフ」
てのは結構ある。
それは俺の勘働きがいいからだとずっと思ってきた。
小学校5年生だった。俺はいつものように〆子と手を繋いで登校していた。
家から小学校までの間に、大通りを渡る場所が一か所あった。
旗を持った交通指導員があっち側とこっち側に二人ずついるような広い道だった。
その朝も沢山の子供たちが信号を待っていた。
信号が青になった。周囲の子供たちが渡り始める中、〆子が急に立ち止まった。
どうしたかと思って俺も足を止め、〆子のほうを振り向くと何かが俺のランドセルをかすめて通った。
どんがらがっしゃーーん!
と背後で轟音がした。
大型バイクが歩道に突っ込み、壁に激突して大破していた。
中学生になったばかりのころ、通学路にある3階立てビルが建設中だった。
商店街の狭い通りだったから、工事壁が道を圧迫していた。
通勤通学の人が行き来している普通の朝だった。
電車に乗り遅れるからと足早で俺が〆子の手を引く形で急いでいたら、
〆子が思いっきり手を引っ張った。
俺が足を止め振り返えると、〆子が行く手の空を指さしていた。
がーーーーん!
背後で鉄骨が落下した。
高校の2年の冬、俺と〆子は・・・・・。
つまり、俺はいつも〆子に助けられてきた。そういうことだったのか。
7月のあの「しんどい一日」4限の廊下で〆子がなんであそこに立っていて、
康太に1秒ごとに武器をパクられながらも、
きららが攻撃を敵に当てることが出来たか。あんなに絶妙のタイミングで。
それは〆子が知っていたからだ。
異次元の裂け目からいつどこで敵が出現するか、〆子が知っていたからできたことだったのだ。
そしてあの日が「しんどい一日」になることが分かっていたのも。
「予知能力」
「うーーん、ちょっと違うけど。結果的には似てるからなー。じゃ、そういうことにしておこう」
「ちょ、まって」
「二等兵殿には早い」
〆子の心の声が言った。
「じゃあ、説明するとね。#)%"#%IOA(Y(KSA)」
G語って・・・・。
イラっとした。
なんでここに来て、ばっくれられなきゃいけないんだ。
俺だって「しんどい一日」を共に戦った仲間じゃないか。
その結果、種まで取られてぶっ飛ばされて閏6月なんて太陽暦ではありえない時間を生かされている。
それを新参者の様に邪険にするのはどうかと・・・・。
「回転がさ」
話はとうに先に進んでいた。
「みいの生死如何で起きるような気がするんだよね。」
「ふん」
「ゆいちゃんもそう思うでしょ。だから今度のアルファベット戦、絶対勝って見極めないと」
また二人は俺の分からない領域に行ってしまっていた。
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ここまで読んでいただきありがとうございます。
くるみと星形みいの関係は今後明らかになってゆきます。
でも、次のお話はちょっとだけ北沢慈恩にお付き合いを。
もしよろしければお気軽に感想、レビュー等お寄せいただけるとうれしいです。
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次回の更新は
10月31日(土)朝8時
になります。
今後も『すたうろらいと・でぃすくーる』をどうかよろしくおねがいします。
takerunjp
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