にのはち 神河勇気、みんなのケツ持ちをする

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にのはち 神河勇気、みんなのケツ持ちをする

それでも、なんとか五分近い得票を維持できているのは、女子票がきららを応援しているからだった。 それだけではない。意外な加勢があったから。 くるみだ。 くるみはタイマンに絶対の自信があるから、外ウマにまったく興味がなくて そのために、集票幹事も指名しなかったのかと思っていた。 ところが、くるみはしょっちゅうG組に足を運んで来ては、〆子に、 「どんな?」 と探りを入れる。 めっちゃ得票を気にしている風なのだった。 C組の女子(慈恩のファンらしい)がβに入れようとした時、 「おま、ちげーだろ!、女子がβに入れたら計算が合わなくなんべ」 といって、無理やりαに変えさせていたという。 女子の中にはくるみファンもいるわけで、というか実は結構人気があるのだが、 女子の集票が行われるときは、わざわざそのクラスに出向いて行って、 教室のドアのところで思いっきり目を剥いて圧力を掛けαに入れさせたりしていた。 2限の業間休み、俺が便所から出てきたところでF組の佐々木海斗に声を掛けられた。 「ゆいに言っとけ。票取りすぎんなって」 「何でだ?」 「慈恩に恥かかすと危ねーよってこと」 「たかがアルファベット戦の外ウマだろが」 海斗が俺の肩に腕を回してニヤニヤしながら、 「知らねーのか。慈恩にバック付いたの」 「バック?」 「組関係だよ。場合によっちゃ、くるみも慈恩に落ちる」 「まさか」 「なんてな。冗談だよ。きららによろしく言ってな。アルファベット戦期待してるって」 そう言って俺の肩をポンポンと二つたたいて、F組のほうに小走りで去って行った。 F組の入り口には慈恩がいて海斗が身を小さくして今のことを報告してるらしいのが見えた。 いつの間にか、慈恩の立場が強大になっているようだ。 それも配信で稼いだ大金と知名度のなせる業かと思うとやりきれなかった。 それと、俺は 「くるみが落ちる」 という海斗の言葉が気になった。 7月の保健体育の後に海斗が言った、 「慈恩がエロ配信で退学」 という言葉が脳裏をよぎったからだ。 くるみに限ってそんなことあるはずないとすぐに打ち消したが、ザワザワする気持ちは拭い去れなくなってしまった。 組関係が関わってくるなら、蛇の道は蛇ともいうし。 思えば、くるみがあんなに票取を気にかけているのも、こっち方面の情報をいち早く察知したからかもしれない。 いくら強いと言っても、くるみは女子高生。しかも一匹狼だ。 さすがに組関係を敵にしてまで勝つ自信はないだろう。 教室に戻るときららが来ていた。 「ちょっと、ゆいちゃんと来てくれる?」 「どこ行くの?」 「いいからついてきて」 〆子はすでに了解済みのようで、 「う」 と手を差し出してきた。 さっそく〆子の手を取って、きららについて行く。 「なんかあったの?」 先を急ぐきららの背中に話しかける。 「外ウマで問題が出てる」 「それ、集票結果で云々ってこと」 「そう。外ウマに外部からの圧力がかかってる」 「外部って、もしかして組関係?」 「うーーん。組っていうか、G」 「え? 慈恩のバックってGなの?」 「慈恩くんのことは分かんないけど、外ウマにGが干渉しようとしてる」 それで慈恩が持って来た規約書がG語になっていたのか。 ということは、かなり慈恩にとって有利だってことなんじゃ。 「それって、例えばくるみに悪い影響ある?」 「そうだよ。よくわかったね」 きららに褒められてちょっと気が大きくなった。それがいけなかった。 「慈恩がくるみとエロ配信するんだな」 階段の踊り場できららが立ち止まり、こちらに振り返ると、 「バッカじゃないの!」(大音声&大反響) 怒られた。ものすごく怖かった。ほんのちょっとだけ期待してた自分を恥じた。 〆子はあきれ果てたのか、手も握ってくれなくなった。 生徒用玄関で靴に履き替えながら、きららが説明してくれた。ごめんねバカで。 星形みいがいるボックス。例の「商店街」の廃ビルだ。 あそこにはGの毒が充満しているが、その毒が致死量を超えたかどうか未決定のため星形みいの生死は5次元的状態のままで保存されている。 だから、くるみがパーリータイムしたときのように、いつ行っても星形みいには状態でしか会うことが出来ない。 それをGは、今回の外ウマの結果如何で決定付けるよう干渉したらしい。 外ウマの結果がα優勢でもβ優勢でもボックスの毒は致死量を超え星形みいは死ぬというふうに。 同数でないと今の状態すら許されなくなるという。 「冗談だろ」 「そう、冗談みたいだけど、Gはいつも人の生死を嘲笑うようなことをするの」 「ちゃらけてる」 〆子の心の声。 俺にはよくは分からなかったが、妹を人質に取られて戦わされているきららに言われると、納得するほかなかった。 「で、どうするの?」 きららに聞いた。 「人に頼みに行く」 「だれ?」 きららは梅雨の雨がしとどに降る校庭を指さして言った。 「神河勇気」 校庭は降り続いた雨で一面に小さな川筋がいくつもできていた。 小さな川の水は砂粒をさらさらと流しながら澄みきって、見ているうちに浚われるような錯覚を覚えた。 幾つもの川筋が校庭いっぱいに流れを作っているが、それらは次第に集まり一つ所に流れてゆくように見えた。 その流れが集まったところに赤いビニル帽をかぶり黄色い雨合羽を着た子供が佇んでいた。 手には青いスコップと真っ赤なプラスチックバケツを下げている。 きららが俺と〆子を手で制し一人でその子供に近づいてゆく。 きららが横に並ぶと、子供の背丈はきららの半分もない。 きららが子供に話しかける。 「神河くん」 それが神河勇気だった。 きららの声が聞えないのか、神河少年は別のことを口にした。 「こまったな。またスコップが折れちゃったよ」 「勇気くん」 名前を呼ばれて、神河少年はきららを見上げ、 「お姉さん知らない? ボクの赤いスコップ。この間、砂場に置き忘れてから見つからないんだ。あれでないとすぐに折れて使い物にならなくなっちゃうんだ」 と言った。きららはそれを無視して用件を告げた。 「井澤きららだけど、里間ゆいちゃん連れて来たよ」 神河少年の表情がパッと明るくなった。 「ゆいちゃんを?本当?」 と言うと、黄色い雨合羽の少年が、突然学園の制服を着た背の高いイケメン男子に変わり、 「ゆい。元気か?」 と、さらにイケボでこちらに話しかけてきた。俺には見向きもしない。 「ふん」 「よかった。この間どこまで飛ばされたかって心配してたんだぜ」 どうやら二人は知り合いのようだった。変な感情が押し寄せてくる。 「で、どうした?今日は」 「ふん」 「そうなんだ」 神河青年は〆子の心の声が聞えるっぽい。が、今のは俺には聞こえて来なかった。 どういうことだ? 「わかったよ。協力する」 そう言うと神河青年は再び神河少年に戻り、今度はその場にしゃがみ込んでしまった。 きららがゆっくりとこちらに戻ってくる。 「も少し離れた方がいいよ。ショウくんにはきついかもだから」 「いや、ここにいる」 なんだか、意地でもそこを動きたくなかった。きららに言われて尚更そう思った。 「無理にとは言わないけど」 「で、何が始まるの?」 「確変」 その時、神河少年が雨で出来た小川に折れた青いスコップを差し込んだ。そのスコップで川の中を力を込めてこねくり回す。神河少年の露出した肌の血管が全て浮き上がって見え始めた。 それにつれ、ぐわぐわと地面が動き、それまで俺たちの足の下に流れていた雨の川が右に左に激しく揺れ動き、絡まったり離れたり、結び合ったり切れてしまったりとせわしなく変動した。 あのひりつく頭痛が襲う。神河少年の周りに凄まじい陽炎が立ち上っいる。雨だってのに。 体が揺さぶられ頭痛がいや増し、俺は意識を保つのがやっとな状態で、神河少年の儀式が終わるのを耐えた。 ぎゅぅぅぅんん。 動きがやんだ。 「できたよ」 白い歯をキランと光らせて神河青年が〆子を見ていた。 「ふん」 「じゃあ、ゆいまたな」 と言うなり、再び神河少年にもどって、 「ボクの赤いスコップ探さなきゃ」 と、地面にしゃがみこんだ。 生徒用玄関までもどるときららが言った。 「あの子、因果を捻じ曲げることが出来るの」 「じゃあ」 「必ず、結果がタイになるように頼んどいた」 どんなにGが干渉しようとも、因果律で作用させたものなら何人(なんぴと)も手出しなどできようはずがない。 これは完璧な作戦と言っていい。 「でも、今のなら俺いらなくね」 いつものように「ゆいちゃん借りてくね」でよかったっぽい。 「ううん。ショウくんがいなかったら、ゆいちゃんがあの子の世界に取り込まれちゃってた」 「大人の男が怖いらしい」 〆子の心声が言った。おかしな感情はどこかに消えてなくなっていた。 ---------------------------------------------------------------------------- ここまで読んでいただきありがとうございます。 こっそりエロ配信に期待していたショウは、 きららの逆鱗にふれてしまったようです。 ショウって、とほほな奴です。 次回の更新は 11月03日(火)朝8時 になります。 ご期待ください。 スター、本棚登録、スタンプ、コメント等足跡を残していただきますと、日々の励みになります。 今後も『すたうろらいと・でぃすくーる』をどうかよろしくおねがいします。 takerunjp
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