26人が本棚に入れています
本棚に追加
/63ページ
にのじゅういち くるみ、レディースに入る
ピアスを貸せと言われて咄嗟に、何の?と思ってしまったのは、
付けているのを忘れてるほど、十字石のピアスが我が身に馴染んでいるせいかもしれなかった。(作者が設定をド忘れしているせいでは決してない)
「あ、いいすよ」
俺は即座に応えて、右耳のスタウロライトのピアスを外すと、くるみに渡そうとした。
「ダメでしょ」
〆子の心の声がそれを制す。
「なんて?」
「自分のじゃダメかって言ってます」
さっき、俺の覗きの邪魔をした仕返しをしてみる。
「てめ、何言ってんのか分かってんのか?」
「さすがに、ゆいのは借りらんねーよ」
「なんでです?」
「女子はそういうの大事だろ?」
「う」
「なんて?」
「ありがとうだそうです」
〆子の握力が・・・・。今俺の手は自由だから関係なかった。
しかし、次に握るときは覚悟が必要なようだ。
くるみは、俺からピアスを受け取ると、
「最近のゲームでもあったろ、こういうの」
と言いながら、デコ刀の持ち手の所に、スタウロライトを無理やり埋め込んだ。
そしてその部分を〆子に見せながら、
「どうだ、ゆい。かっこよくね?」
「う」
「なんて?」
「めっちゃいいそうです」
「だよな、じゃ、ちょっとくらやってみっから、離れて見てろ」
再び路地の奥に歩みだすくるみ。
〆子と俺はくるみに言われた通り少し後ろからついて行く。
路地の突き当りには廃ビルが黄色い街灯に照らされて、そこだけ不気味に際立っている。
廃ビルの正面まで来ると、くるみは持っていた白バラの花束をそちらに放り投げ、
「みい、必ず助けるから、もう少し辛抱してくれな」
と言った。
廃ビルはしんとして静まり返ったままだったが、
その屋上を見ると、数十匹ものGたちがくるみを見下ろしていた。
そして、そいつらからは声にならない笑い声がしてくるのだった。
あたかも、そんなことにはなりはしないと言うかのように。
しかし、くるみはGどもの嘲笑などどこ吹く風で、
デコ刀を水平に構えると、そのまま一刀、横に薙いだ。
前の時のように廃ビルが真っ二つになるかと思ったが、しばらくたっても何も起こらない。
くるみはデコ刀を肩にしょって立ち、
「きょうはこれくらいにしておいてやる。なんてな」
と言うと、〆子と俺に手招きした。
続けてくるみは廃ビルの前の空間を両手でまさぐるようなしぐさをして、
「やっぱりな」
と言ってぐっと腰を入れると、両手を虚空に差し入れ、そのまま上下に押し広げた。
黒より真っ黒いGの毒々しい世界が横真っ二つに開かれた。
くるみはその隙間を左足と左肩で押し開け、リング上でロープを広げるプロレスラーみたいになりながら、
「はやく入れ」
とデコ刀を振って招く。
【くるみちゃん伝説その5】
「くるみの前でシャバいことすれば異次元送り。腐ったみかんはガッコにお帰り」
俺はビビって足がすくんでしまって動けない。
すると〆子が俺の手を取って、ひと握力込めてさっきの仕返しをしたかと思うと、
ぱっくり開いたG空間に向かって駆け出した。
俺も否も応もなくついて行ったわけです。
漆黒の闇の中に落ち込んでゆく感覚。
魔王の時とは少しちがうけれども、明らかにそこからどこかにぶっ飛ばされている感覚があった。
ピアス返してもらえなかったら母さんどうするだろう。
小学生の時、友達にピアスを隠されて付けずに帰ったら母さんその子の家に殴り込みに行ったっけ。
くるみVS母さんか。
どっちが強いんだろう。
「てめ今なんつった、ぶちのめされてーか?」
くるみの声がする。聞き耳を立てるがぼんやりとしか像が結ばない。
「はあ?1年坊がシャバけたこと言ってじゃねーぞ」
誰でしょうか?そうとうドスのきいた声の方だけど。
目を開けてみると、ここは学園の生徒用玄関。
人だかりの中、くるみが聖子ちゃんカットにロングスカートのいかついお姉さんに立ち向かっていた。
2倍はがたいが大きいその相手を前にくるみはまったくひるんで見えない。
その後ろに人影、〆子が縮こまっていた。
いや、同じように痩せてて色白で金髪だったからそう見えたが、〆子は俺の隣にいた。じゃあ、あれは?
「星形みい」
〆子の心の声が言った。
「お前のそのかわいこちゃんに用があるんだよ。新入生がガッコ1日目で金髪じゃあ、こっち示しがつかねーんだ」
「どんな髪色しようが、かわいいんだからいいだろ。てめーにとやかく言われる以下省略だ」
「文学的なあまりに文学的なこちらのピンクの髪のお方が誰だか知ってる人?」
「「「「京藤くるみちゃんでーす」」」」
デカ女の背後には十数人の同じような恰好をした女子が居並んでいた。
くるみは既に有名人らしかった。
そういえば、高校に上る時やばい奴が外部入学生にいるって噂になってたな。
あれ、くるみのことだったのか。
でも、噂だけでその後、何も聞かなかったのは、
どっかーーーーん!きらきらきらきらーーん、ぱらぱらぱら。
3秒で制圧したからだったみたい。
「ちょ、お前ら見てねーでキラキラひらうの手伝えや」
と言われても、そこには星形みいと二人の空間が出来ているからだれも近寄らない。
簀子を剥がしてくるみが拾ったスワロフスキを、中腰のみいが両手でもらい受けて、
「帰ったらまたウチがデコってあげるね」
「みいはやさしいな」
とか言っている。
「今度は、カラーのも入れて見ようよ」
「それな」
くるみは星形みいの金髪を撫でてくしゃくしゃにしながら、
「ぶん殴った時のエフェクトがやばいぞ」
と言ってスワロフスキを手渡した。
エフェクトて。
「こっちだ」
振り返ると、階段のほうで特攻服のくるみがプロレスラーのように空間を押し広げていた。
〆子に引きずられながら、再び真っ黒の黒いG空間にダイブする。
「ウチね、レディース暴走族に誘われたんだ」
こたつ台の前で女の子座りしている星形みいが『チャンプロード』のページをあてどなさげにめくりながら言った。
髪の色は金色から銀色に変わり、学園の夏の白いセーラー服を着ている。
くるみの6畳の部屋だった。
黒ジャージのくるみが広げたマットレスの上で体を返し、
「一昨日免許取ったばっかだろ、16になったからって」
「そうだよ、免許センターで会った人だもん、誘ってくれたの」
「なんてとこよ」
とくるみが聞くと、星形みいは言いにくそうに、
「グラビティーズ」
と言った。Gの名前だった。
「聞かねーな」
「なんか、最近出来たみたいだけど、強いんだって」
「大丈夫か? ウチも一緒に入ろっか?」
分かりやすいといったらこれほどわかりやすい表情の変化はないだろう。
星形みいの顔がお日様が射したように明るくなった。
「ホント?誘ったら怒られると思ってた。だってお姉一匹狼じゃん」
「ばかだな。みいが行くとこならどこでもいくから」
「お姉はやさしいね」
「それはウチのせりふだしょ」
「レディースに入るんなら、バイクいるね」
「そんな金ねーし。チャリでよくね。『湘爆』も最初チャリだったじゃん」
「じゃあ、ママチャリ2ケツで?」
「トップ張ってやんよ」
「さすがお姉」
星形みいが立ち上がって部屋の隅に行き、立てかけてあったデコ刀を持ってきてマットレスにちょんこと座ると、くるみにそれを手渡した。
「お姉が寝てるときやっといた。ムラサキ多めで」
「おー、今度のもかっこいいな。こいつでまた暴れまわってやっから」
「うれしい」
「ありがとな、みい」
と言うなり、くるみが星形みいを引き寄せてぎゅうと抱きしめた。
星形みいの頬に紅が指す。
〆子の掌が汗ばんできた。
「ちょ、見んなバカ。こっちだ」
振り向くと、特攻服のくるみが玄関のところで再びプロレスラーしていた。
今度は俺が名残惜し気な〆子の手を引いて真っ黒空間に飛び込んだ。
--------------------------------------------------------------------------
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
くるみと星形みいの過去を綴りました。
さらに、次回はGレディースでの顛末を中心に、2人とGとの因縁を詳述します。
よろしくご期待ください。
次回の更新は
11月08日(日)朝8時
になります。
ご期待ください。
スター、本棚登録、スタンプ、コメント等足跡を残していただきますと、日々の励みになります。
今後も『すたうろらいと・でぃすくーる』をどうかよろしくおねがいします。
takerunjp
最初のコメントを投稿しよう!