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にのじゅうなな 〆子と俺、胡麻塩頭のところにカチコミする
下校途中、最寄りの地下鉄駅でスマフォ見てたら気になるNEWSが流れて来た。
「商店街で組関係者が射殺されました。犯人は以前に破門された30代の男で現在逃亡中」
あまりのタイムリーさで、ご都合主義もいい加減にしろといいたくなるが、そこは大人な態度で驚いて見せる。
「〆子これ」
「うん。行ってみよう」
商店街のある駅で途中下車する。
商店街のアーケードをくぐると中は、けたたましいサイレンの音が鳴り響いていた。
〆子と俺は、急ぎ足でG務所へ向かう。
やはり、G務所前は警戒線が張り巡らされて、警察とマスコミの車両で道が塞がれ野次馬で騒然となっていた。
近づいてみると、ドアの前に水を打った跡が見えていて、どうやらそこが事件現場のようだった。
やはりというか、その場に慈恩がいて両肩をワナワナと震わせている。
「慈恩」
声を掛けると、振り向いた目はすでに別の世界を見ているようだった。
「畜生。あの人をやりやがった奴を俺が殺ってやる」
「バカ言うな。餅屋は餅屋にまかせろだぞ」
「おさるのジョージに何が分かる。ストライパーの片棒担ぎが」
「今、ストライパーとかボーダーとか関係ないだろ」
「知らないのか? あの人を殺ったのはストライパーだぞ」
どういうことだ?
〆子を見る。
「ストライパーにもいろいろいる」
と心の声が苦しそうに言った。
「ストライパーなんて結局、ヒューモア知らずの悪人だ」
何を言ってるのかわからない。
「そうだろ。時間は人間の気持ちなんか関係なく無慈悲に進み続ける。それを戻そうとするボーダーと、強引に進めようとするストライパーとどっちが人間らしい?」
言葉がなかった。
俺は、Gにザクロを人質に取られてきららが戦い、星形みいを奪われてくるみが戦うのをはたから応援していただけだった。
今まで善悪なんて考えてもいなかった。
慈恩が叫んだ。
「俺は絶対ボーダーになってあのストライパーを帰ってこれない過去にぶっ飛ばす。そして世界をあの人が生きている時間に戻してやる」
とコロコロと転がって行ってしまった。
俺は慈恩の行方を見るため急いで夜の商店街に耳をそばだてた。
すると見えた。違うものが。
あの胡麻塩頭の呼吸する音が見えてきたのだった。
どこかの集中治療室のようだ。
射殺されたんじゃなかったのか?
そうか、やくざ映画でよくあるやつだ。
再襲撃されるのを嫌って一旦死んだことにするあれだ。
「〆子」
「う」
胡麻塩頭がいるのは商店街のはずれにある、中央病院のようだった。
中央病院に着いて受付の人に聞いたけど、そんな人はいないと言われた。
当然か。
でも、いるのは分かっている。
俺には見えてるし、こんなに大勢のおっさんが待合にいるのは変だろ。
おそらく私服警官だ。
受付で胡麻塩頭のことを聞いたせいか、その中の一人が近づいて来た。
「なんでわかった?」(小声)
かなり強圧的な印象だ。
〆子が心の声で、
「こいつはヤバい」
と言ったので、俺は間髪いれず耳を傾け、そいつを病院の外へ。
すぐさま〆子の手を引いて2階への階段を駆け上った。
〆子を連れて俺は、殺し屋が人がいなくなるまで身を潜めたり、こっそり白衣に着替えたりする物置みたいな部屋に隠れた。
外国映画とかドラマの病院に必ずあるだろ。あれだ。
「あいつは?」
「ストライパーだ」
と、〆子の心の声が言った。
「味方じゃないの?」
「微妙」
「例の舎弟の?」
「わからない」
いずれにせよ、集中治療室は1階の受付の裏側だから、あの場所に戻らねばならなかった。
「どうしよう。きらら呼ぶ?」
「別の人、呼んだ」
「ショウよ。私はお前の父なのだ」(重低音)
って、いつの間に。
「だから、私の言うことをきかぬからー」(重低音)
岸田森林が部屋の奥に立っていた。頭、天井に付いてないか?
「お久しぶりです」
「この間はどうも。お母さんは元気?」
と言われても、いつのことなのかわからない。
7月なのか、実はもっと前に会っててその時のことなのか。
「元気ですけど・・・」
世間話しに来たんじゃないでしょ?
今日の岸田森林はドラキュラマントでなく背広姿で、胸のポケットから名刺を取り出すと、
「G関係でお困りの時は、この岸田森林にお任せを」
と言った。
名刺には、
「探偵G務所 所長 岸田森林」
とあった。
「浮気調査が主だけどね」
この巨体で尾行とか無理っぽいけど。
「この間なんか、三又男を調査してたら・・・・」
「う」
〆子があからさまに不快な顔をする。
「あ、ごめん。お急ぎだったんだよね」
と言うと、岸田森林はさっさと物置を出て行った。
〆子と俺は後を追う。
1階に降りると、岸田森林は何の警戒行動もとらず、普通に待合に入って行った。
顔を知られていないのか?でも、目立つよね。あのガタイ。
俺も恐る恐る〆子の手を引いて待合に入る。
なんか変じゃね?
さっきの「やばい」人、スマフォいじった姿勢のまま動かない。
それに、この空間音がない。
「時間を止められる」
〆子の心の声が言った。
うっそーーー!すっごくない。それってAVのイタズラ系のやつで・・・・。
〆子の握力が、ブラックホールの事象の壁をすり抜けた。
「いてててえーーーー。ロジャー・ペンローズ様他名2名様、2020年ノーベル物理学賞受賞おめでとうございます!」
突っ立ったまま動かない医師や看護師たちの間をすり抜けて、集中治療室へ。
一番奥の、膝下全部がベッドからハミ出してる患者が目に入った。
ベッドの脇の医師や看護師の肩越しに中を覗くと、胡麻塩頭が見えた。
岸田森林が、胡麻塩頭に付けられた管を勝手に外してゆく。
「まって。それ外したらまずいでしょ」
「大丈夫。この人、医学的に傷害受けたわけじゃないから」
どういうこと?
「心臓を一突きにされただけだから」
「それって完璧、医学的なんじゃ」
「見るか?」
そう言うと、岸田森林は手刀を胡麻塩頭の胸に差し入れ縦に引いた。
くるみや星形みいがやったように。
開かれた胸の中の心臓は拍動も止まっている。
時間を止めているせいなのか、医学的に停止しているのかは分からない。
そして、そこには大きな丸い穴が開いていて、輝く光の液体が漏れ出ていた。
「ネゲントロピーの雫?」
「お、勉強したね。この人ボーダーだから」
そうだったんだ。だからG務所なんだ。
慈恩ってつくづくGに取り囲まれちゃってるんだな。
ボーダーになるの辞めて、舎弟になるって慕った人もボーダーだったなんて。
「これをこうして、止めたら。ほら動き出した」
おもちゃの電池入れ替えるみたいに簡単だった。
「急いでここを出よう」
「なんで?」
「わたしのタイムストップも万能じゃないから。あと30秒で切れます」
なら、早くしようよ。
でも、どうやってこの巨体を運ぶ?
「耳をめっちゃ傾けろ」
とは〆子。
そうでした。すぐ忘れるけど俺の異能力だった。
わぼ!
とりあえず病院の外へ飛ばしておく。
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ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
今回も慈恩の空回り感が際立ちます。
ボーダーを諦めて舎弟になろうとした人が死んでしまって、
かと思ったら生きてて、でもその人はボーダーでって。
転石苔を生じずといいますが、慈恩の場合はどっちの意味でしょうか。
次回の更新は
11月19日(木)20時
になります。
ご期待ください。
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今後も『すたうろらいと・でぃすくーる』をどうかよろしくおねがいします。
takerunjp
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