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にのじゅうはち 〆子ときららと俺、裏番に会いに行く
それから、胡麻塩頭の巨体をわばわぼして着いたのが、岸田森林の探偵事務所だった。
「違う」
〆子の心の声。
あ、ここもやっぱり探偵G務所になってる。
ストライパーもボーダーも事務所開いたら、とりあえずG務所になるみたい。
岸田森林のG務所は商店街の外だった。
地下鉄を乗り継いて行けば3駅の距離らしいが、わぼわぼして来たから、ずいぶんと遠く感じた。
G務所のあるオフィスビルは1階のエントランスホールに観葉植物とかが置いてあるこじゃれた感じの所だった。
7階でエレベーターを降りて、せっまい廊下をくねくね行った端っこのスチール製の扉をあけると、
事務机と来客用のソファーだけでいっぱいになるような狭苦しいオフィスだった。
来客用の長椅子に胡麻塩頭を寝かせ、〆子と俺は向かいに座る。
「まあ、ゆっくりして行ってよ。柿ピーでいい?」
別室から出て来た岸田森林が、テーブルの上に柿ピーとお茶を出した。
「この胡麻塩頭のおじさんどうします? ポリポリ」
そもそも何故ボーダーのおっさんをここに連れて来たのか疑問だったが、そこは〆子も岸田森林も気にしてなさそうだった。
「とりあえず、目が覚めるの待ってるとして、その後だよね。すぐに丸山嗅ぎ付けてここにやって来るかもだからね ポリポリ」
胡麻塩頭を刺した元舎弟の名前は丸山太蔵というそうで、もともとは胡麻塩頭を監視するためにストライパー陣営が送り込んだスパイだったらしい。
ちな、胡麻塩頭って長谷川直美って女子っぽい名前なんだって。
「だれが女っぽいだと」
と直美ちゃんがソファーの背に肘を掛けながら上体を起こし始めた。
起き上がると改めてその大きさにビビる。
直美ちゃんといい岸田森林といい、でかいから俺はなんだか恐竜時代に彷徨いこんだ気分になる。
部屋のシダ系観葉植物と木目調の壁が一層それをリアルに感じさせる。
直美ちゃんは、事務机の岸田森林に気付いて、
「お前か」
知り合いらしい。
「お前、あいつの監督官じゃなかったのか?迷惑してるぞ、まったく」
「丸山くんは、もうこっちもお手上げで」
と答える。
二人はそれぞれストライパーとボーダーのはずだけれど、見ている限り敵同士っていう感じもない。
それはきららとくるみとの間でも言えた。
なんでなんだろう。
「二人はもともと幼馴染らしい」
と〆子の声。
なんか、ストライパーとボーダーってご近所で構成されてるのね。
「まあ、近辺で集まるからな」
「日本中にこんな感じで存在してたりw」
「世界中」
冗談じゃなかった。
ストライパーとボーダーっていたるところで戦い合ってるらしい。
「まあ、一つの場所程度じゃ、エントロピーなんぞどうにもできんからな」
と言ったのは直美ちゃんだった。
今更驚かないが、〆子の声が聞えるっていうのは特別な能力ではなかったらしい。
ここ最近、ちょいちょいそういうのに出会う。
結構、俺氏ショックでかい。
「回転か」
「そうみたいだね」
岸田森林と直美ちゃんが話をしているのは、俺たちが閏6月に飛ばされてきた最初にきららが言っていたことと同じだった。
きららは、アルファベット戦後が怪しいと言っていた。
岸田森林と直美ちゃんはこんなに動きが激しいことはあまりないと言う。
戦争とか大災害の時ほどでもないが、大きな回転が予想されるとも。
どうやらそれは、星形みいの存在とそれに入れ替わる形の慈恩の妹が大きな影を落としているようだった。
慈恩ボーダー化の茶番劇レベルではなさそうだ。
「回転をひっくり返すことはできないんですか?」
岸田森林と直美ちゃんとに聞いてみる。
「到底無理だろう」
直美ちゃんが答える。
「回転に対するわたしたちの能力なんて、地球に1個の珪藻が及ぼすほどの力もない」
岸田森林が言う。
「また、珪藻の例えか。お前は昔から珪藻が好きだったな」
「あれは凄いぞ」
「わかったわかった。その『珪藻図鑑』をまず仕舞え」
「なんでわたしがこれを出そうとしていたのがわかった。さてはお前あらたな能力を」
「ばかか?それがお前のルーティーンだからだろ。そのあと『珪藻図鑑』で1時間ばかりの解説と続く」
なんて会話からは二人が本当に幼馴染というのが伝わってきたから、敵対関係だなんてなおさら信じられなくなった。
「7000勝7000敗。端数は切り捨て」
〆子が言った。
激突、恐竜キング!w。
さしずめ岸田森林がパラサウロロフスで直美ちゃんがティラノサウルスか。
できれば、仲良くしていてください。
慈恩のことを直美ちゃんに聞いてみた。
「あの坊主か。こっちは舎弟になりたいってなら拒まんがな」
その時、Gとの関係はどうなるのだろう。
今まで通り3軍なのだろうか?
「それは、坊主の気持ち次第だし、おそらく妹ごの意思が優先される」
つまり、慈恩と慈恩の妹の気持ち次第だということか。
ビルの玄関まで、直美ちゃんを見送りに出る。
直美ちゃんは、
「次は殺す」
と言って、迎えに来たレクサスの黒いミニバンに乗り込んだ。
シートが2列仕様になってるけど直美ちゃんってば窮屈そう。
車が走り去るのを見送りながら、
「あの人が生きてるのを知れば、慈恩も考え変えますね」
と言うと、
「そうでもないのだよ。実は妹の方がこの件では積極的らしくてね」
岸田森林が困ったといった顔をして言った。
むしろ慈恩はせっつかれているのだそうだ。
ということで、〆子と岸田森林と俺の3人で慈恩の妹に会いに行くことにした。
地下鉄に乗ってニュータウンへ。
〆子を座らせ、俺と岸田森林はつり革につかまる。
岸田森林の異常な背丈に周りの人の注目が集まる。
大きな背中を縮こまらせて居たたまれなさそうに見える。
この人って普通にしてたら結構生きづらいのかも。
「〆子は慈恩の妹に会ったことあるの?」
「あるよ。ショウも知ってる子だよ」
〆子が心で答える。
「誰?」
「青葉さん」
「え?特進αの?だって苗字が」
「青葉さんはお母さんに、慈恩はお父さんの実家に引き取られた」
「双子ってこと?」
「違う。青葉さんは2年飛び級してる」
そうだった。すごく頭いいんだった。慈恩にとっては自慢の妹ってところか。
「えっと、私帰っていい?」
危ない。岸田森林、放っときっぱだった。この人放っておかれると帰っちゃうから。
「すみません。いてください」
岸田森林の機嫌をとりながら、慈恩の妹の家の情報を探る。
住所を聞こうときららに連絡とったら、あたしも行くっていわれて、駅前のドムドムバーガーで待ち合わせることになった。
岸田森林はドムドムの名物メニュー「丸ごと!!カニバーガー」をうまそうに食べてご満悦だ。
「やっぱり、カニは丸ごとガブリが一番ですね」
キヒヒと気味の悪い笑い声を出して言った。
「何あれ」
と〆子に聞くと、
「古いおっさんは、ボーダーをカニって言う」
横だけに?
「で、ストライパーは?」
「当然サル」
「猿蟹合戦ってこと?ならストライパーは悪もんじゃん」
「善悪の彼岸にいるから、彼らは」
なんだかなだが、一つ思い出したのが、熱盛が俺を「おさるのジョージ」って呼ぶことだった。
それが偶然でないとすると、やつはボーダーだったりするんだろうか。
「熱盛って?」
〆子に聞くと、
「あいつのことはよくわからない」
と言った。
やがてきららがやってきた。予備校の帰りにそのまま来たらしく学園の制服を着ていた。
「きららさん、お久しぶり」
岸田森林が挨拶をすると、
「森林のおじちゃん、こんばんは」
と結構慣れ親しんだ感じで応対した。
まさか、親戚とか?
「違う」
とは〆子。
「森林のおじちゃんは、小学生のころからピンチの時に助けてくれたから」
絶大な信頼を寄せていると言った。
なんか俺氏アウェー感。
という4人で青葉さんに会いに行く。
青葉さんの名前は漢字で流れを留めると書いて「るる」という。ボーダーっぽい名前だと思ったら、
「漢字の方は自分であてたらしいよ。わざわざ裁判所に改名申し立てして」
「そんなことができるものなの?」
「ふつうなら正当な理由なしではできないよ。でも青葉さんなら簡単」
「ひょっとして」
「そう。いろいろ操れる」
「あの。私かえりますか?」
やばい、岸田森林またもやほっときぱなし。
「おじちゃん、いて欲しい」
きららが珍しく甘えた声で言った。
「はい、よろこんで」
どんだけ寂しがり屋さんなの?
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ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
わぼわぼ移動って、どんな風なヴィジュアルになるんだろう。
でっかい直美ちゃんが空中をストップモーション風に飛んでゆく感じかな。
連続で飛ばそうと思ったらショウもそれについて行かなきゃだから、
飛ばして放置、近づいてまた飛ばして放置っていうのがリアルかもな。
次回の更新は
11月21日(土)朝8時
になります。
ご期待ください。
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今後も『すたうろらいと・でぃすくーる』をどうかよろしくおねがいします。
takerunjp
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