にのにじゅうに アルファベット戦前半戦

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にのにじゅうに アルファベット戦前半戦

アルファベット戦開始15分前。 きららが横に座っていた〆子と抱き合うと、 「じゃあ行くね」 と言って部室を出て行った。 「「「あ、あたしたちも行きます」」」 と後について行くのは猫田3姉妹。 それを〆子がガン見で見送る。 ただひたすらくるみのおさがりの特攻服がうらやましいのだ。 きららがせすぐには始まらないというから、俺たちはギリギリに行くことにしていた。 4時30分になった。 「観に行こうか」 〆子にそう言うと、 「う」 と俺の手を取って立ち上がる。 生徒用玄関に行くと、アルファベット戦を観るためこの時間まで残っていた生徒でごった返していた。 会場は体育館裏。 皆ぞろぞろとそちらに向かってゆく。 体育館を回るとだだっ広い空き地になっていて、そこにアルファベット戦の会場が設えられていた。 左右に分かれた陣営は、5段積みの机の要塞と、その両脇に特進生が座る椅子が並んでいる。 まだ特進生は入場していないようだったが、 特進αの要塞の上には既に、熱盛こと平田航が大股開いて椅子に座り、腕組みしてふんぞり返っていた。 特進βの神河勇気は、 いませんでした。どこ? 校庭の隅のほうに雨雲が垂れこめてて、そこだけ雨がザンザン振ってる。 並んだ鉄棒の下の砂場で赤い帽子に黄色い雨合羽の少年がお砂遊びに夢中になってた。 神河勇気だっだ。 きららとくるみ、この戦いの真の主役はどこだろう。 と思ったら、来賓席があるテントの前にいた。 テントの中はボーダーの先生たちとその隙間を埋めるがごときGの群れ。 溢れ出しそうになってる。 「何やってんだー」 「早く始めろー」 集まった生徒の間から野次が飛んだ。 ビューーーー! 生臭い突風が吹いて、特進αとβ両陣地の間を慈恩がころころと転がって行く。 そして、貴賓席の横の巨大な電光掲示板の所まで行くと、その上に飛び乗り仁王立ちになって腕組みをした。 その電光掲示板には「外ウマ集計結果」とある。 あんなもの学園の備品であるはずないから、慈恩自らが配信で稼いだ金で用意したのかもしれない。 結果わかってるから、それいらんのよ。 きららとくるみが自陣に戻ってゆく。 校舎のほうから足音が聞えて来た。 ざ、ざ、ざ。 聞き耳を立てると、生徒用玄関から続々と出てくる特進生の一団が見えた。 雨も降っていないのに、みんな傘をさしている。 あの映画の影響ってわけでもなかろう。多分雨男の神河勇気対策だと思う。 見物の生徒たちの前を通り過ぎる時、特進αの列に青葉さんを探したが、傘に隠れてよくわからなかった。 慈恩の妹って分かってからヤンデレイメージついたけど、もともとはリア充にも腐女子にも属さない陰キャな人だった。 逆に俺はそういうところに惹かれてたのだったのだけど。 特進の面々が席に着いた。 いよいよ、特進αVS特進βの上等決定戦、通称アルファベット戦が火ぶたが切られる時が来た。 ガガ、ガ。放送が入る。 「え、御室藍です。これよりアルファベット戦を開催します。今回は騎馬戦です」 各陣営からどよめきが沸く。 「騎馬戦(きばせん)は主に、小中学校の運動会で行なわれる競技種目。元は、ウマに乗った武士・・・・」 あいちゃんがWikiの「騎馬戦」を朗誦しだした。 これは時間がかかりそうだ。 で、その間に特進生は騎馬組を割り振っている。 もちろん各組の大将は、きららとくるみだ。 あいちゃんの朗誦が終わるころ、陣形が決まった。 きららとくるみを中心に、特進βが魚鱗に陣を組めば、特進αが鶴翼に受ける真っ向勝負だ。 おそらく、きららはくるみが先陣を切って攻めてくると思っているのだろう。 自分がくるみと一騎打ちしてる間に、他の特進αが特進βの生徒を囲い込んで潰す計画で、 かたやくるみは、きららを取って一気に勝ちに行く気で、他の特進βは固まって守る作戦とみた。 で、男番長の二人はといえば、熱盛は机の上で高みの見物。神河勇気は、 いませんでした。 相変わらずじゃんじゃん降りの雨の中、お砂場遊びしてます。 最初に動いたのは、くるみだった。 猛然ときららの騎馬に向かって一人走り出す。 「姐さん、覚悟!」 大地を蹴って飛翔すると、空中でデコ木刀をきらめかせた。 それ、もはや騎馬戦でないんですけど。 きららが五次元に武器腕を取りに行く。 ぼわ! 取り出したのは、またもや金属バット。今日のは金色のやつ。 「色が違えばいいってもんじゃ」 きらら、スランプか? 〆子が俺の手を引いて、野次馬の中を抜けて特進αの陣へと誘う。 「まって、俺たち今行ったらまずくない?」 アルファベット戦は、特進以外の生徒は門外漢だ。 外ウマもそれを哀れに思った歴代の特進番長が無理やり作ったと聞く。 本来は、女人禁制ならぬ凡人禁制の場だ。 俺が二の足を踏んでいると、 「飛ばされたいのか?」 〆子の心の声が言う。 「なわけ」 〆子と共に俺も特進αの陣の中へ割って入って行く。 「すみません。失礼します」 迫りくるのは特進βの騎馬陣だ。 ガッキーーーーン!きらきらきらーーん。ぱらぱらぱら。 きららはくるみの第一撃をかろうじて受けたが、 右腕の金色の金属バットは、くの字に折れ曲がってもう使い物にならなさそうだった。 次のくるみの攻撃がくればもはや受ける術はない。 でも、くるみは地面にしゃがんで飛び散ったスワロフスキを拾い集めていた。 見かねた特進αの生徒が騎馬を崩してそれを手伝ってあげている。 「あんがとね。あ、あんがと」 とスワロフスキを渡されるたびにくるみはお礼をいっている。 その間に、俺はきららの騎馬の1人と入れ替わった。 「ゆいちゃん、お願い」 きららが言うと、〆子は右手を差し出してきららの左手を握る。 ぼわ! 今度きららの右手について来たのは、 マスケット銃。先込め式のやつーーー。 「銃口に手が届かないよ。タマも込めらんないじゃん。もう一回」 ぼわ! 今度ついて来たのは、 さ・す・ま・た 「これ武器って言う?」 きららの右腕にはUの字のさすまたが付いていた。 職員室の前にだって立てかけてある。 それをわざわざ五次元に取りに行くって、なんて贅沢なんでしょう。 「今度こそ、もう一回」 ぼわ! 「何これ?取説ないと分かんない」 今度のは口径がやたらとでかい見た目ただの筒。ダイソンの無羽扇風機みたようなやつ。 「なになにEWJ%#Q')Yか。重力波動銃なんだ」 と言っている間に、デコ木刀を構えたくるみがジャンプしてきららの頭上にせまる。 「こう?」 と言って銃口をくるみにむけると、 ボム! 瞬時にくるみが体育館の屋根の向こうに消えた。 その間に、特進αが特進βの騎馬をつぶしにかかる。 くるみが飛ばされ動揺が走るも、特進βは取り囲む特進αの騎馬と互角に渡り合う。 必死に生き残ったものの、大将不在の動揺のせいか、初めの半数になっていた。 そこへ、くるみが戻ってきて叫んだ! 「姐さん!Gの武器使うのは反則じゃねーの?」 「そういう決まりだったの?」 俺はきららに聞いてみた。 「えっと、そうだったかも」 と頭を掻きらがら、くるみに向かって、 「ごめん。ちょっと間違えちゃって」 だが、すでに鬼神と化したくるみにその言葉は届かなかったようだ。 京藤くるみがデコ木刀を逆手に持つ。 くるみの背中から大量の湯気が立ち、ついでめらめらと陽炎が周囲を覆い始める。 「グラディウス」 横一閃、くるみが背後の虚空を切り裂いた。 切り裂かれた空間の向こうには真っ黒いG空間が存在しているのが分かる。 そして、その中で何やら沢山のものが蠢きだしたようだった。 地獄の大魔王崇徳院の悪夢がよみがえる。 くるみはいい人だけど、もともとボーダー。 敵となれば躊躇なく相手をぶっ飛ばしにくる。 切り裂かれたG空間の幅はおよそ30m。 その隙間に、一つ、また一つと真っ黒い手が現れる。 そして、その手で裂け目を押し開き、中から現れたのは、 首なしレディースの皆さんだった。 皆真っ黒いセーラー服に黒いロングスカート、黒い手には黒い木刀と黒革の鞄は鉄板が入り。 当然靴は黒のハイヒールだ。 靴下だけは各々可愛い柄ものをはいている。 いつだって乙女心を忘れないのがヤンキー魂だ。 その数50以上。 「オプションのみんな、特進αを食い殺ろせ!」 つまり首なしレディースはくるみの分身、オプションなのだった。ゆえにグラディウス。 勢いに乗っていた特進αの騎馬に首なしレディースが襲い掛かる。 それにに捕まった特進αの生徒は皆、一瞬で黒汁と化す。 もはや、そこは騎馬戦など生易しい場所でなく殺戮の巷と化した。 順次、特進αの騎馬が黒汁化してゆく中、これで決したかと思ったその時、 応援団席に異変があった。 「「「それはやりすぎでーす」」」 猫田3姉妹が叫んだのだ。 そして、壇上から3人そろって飛び出すと、帆布を翻し、 「「「喰らえ!メテオアタック!」」」 ドゴーーン!ドッゴーーン!ドゴドッゴーーン! 空から降ってきたのは、100kgをゆうに超すかという岩石の塊だった。 猫田3姉妹が帆布を翻す度に、巨岩が空から降ってきて首なしレディースに襲い掛かる。 首なしレディースがどんどん削られてゆく。 「お前ら、こっちの応援団だろ」 くるみが猫田三姉妹に言った。 「「「あ、きらら先輩にもお世話になってますから」」」 「なら、しゃーない」 その間に特進αは勢いを盛り返し、再び特進βが押され始める。 くるみも気勢を削がれたのかそれ以上の首なしレディースは出そうとしなかった。 そこからは一進一退。騎馬の潰しあいが続き、およそ30分ほどで、 戦場に残ったのは俺たちの大将騎馬のみとなった。 特進αは俺と二人の馬生徒、馬上のきららは〆子と手を繋いでいる。 かたや特進βはくるみ一人が大地に立っていた。 えっと、それって・・・。あ、いいです。騎馬戦のルールなんて。 青葉さんたち特進生たちはみな、陣地に戻って遠巻きに見ている。 観戦の生徒たちも野次を忘れて戦いの行方を見守っている。 これはすでにアルファベット戦ではない。 ストライパー対ボーダー、エントロピーの種とネゲントロピーの雫との争いだ。 きららが勝てば、星形みいの命運は尽きる。 ボーダーは「母」を失い弱体化は免れない。 青葉るるがそれに代わるには時間がかかりそうだ。 くるみが勝てば、〆子と俺、そしてきららはまた過去にぶっ飛ばされる。 重力螺旋爆攻の井澤きららと最強にして最恐の美少女番長京藤くるみの一騎打ちの始まりである。 --------------------------------------------------------------------------- ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。 くるみの技「グラディウス」です。 首なしレディースをオプション代わりに攻め立てます。 でも、これが最終技ではないのです。 もっとすごいの次回発動します。多分。 次回の更新は 11月28日(土)朝8時 になります。 ご期待ください。 スター、本棚登録、スタンプ、コメント等足跡を残していただきますと、日々の励みになります。 今後も『すたうろらいと・でぃすくーる』をどうかよろしくおねがいします。 takerunjp
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