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さんのなな とっととあたしを野球に連れてって!
るると一緒に飛び込んだG空間から出ると、目の前に緑の芝生が広がっていた。
スタンドに大勢の人がいて歓声が響いていた。
「野球場?」
「うん、パパと一緒によく観戦しに来たんだ」
るると俺は一塁側の後方の階段に座って小さなるるとパパのいるボックスシートを見下ろしていた。
そこは一角だけグランドに張り出していて手を伸ばせばグランドの土が掴めそうな特別シートだった。
小さなるるは自分の顔より大きなグローブをはめてパパのほうに盛んに話しかけていた。
「本当に楽しかった。野球を見るのが大好きだった」
るるはそこで言葉を詰まらせた。
そして、
「パパと一緒だったから」
るるの声が震えているように聞こえた。
カーーン!
スタンドがどよめいて俺の目の前にボールが飛び込んできた。
<ファールボールにご注意ください>
とアナウンスがあった。
こういうアナウンスはどこでも遅すぎる。
観客席にいたボールボーイがそれを巧みにさばいて、捕ったボールを近くの子供に渡した。
観客の中から拍手が起こった。
どうやらこの球場ではファールボールを観客にプレゼントしてくれるらしい。
「いいね。あれ」
「そうなの。楽しみの一つだった」
小さなるるを見ると、シートから立ち上がってボールを貰った子の方を見ながら、パパになにやら物言いの様子。
「あれが欲しいって駄々こねてた。でもボールなんてほしくなかった。パパを困らせたいって思ってたんだよね、ホントは」
ドSは双葉より芳しだ。
「困ってるね。きちっと」
「うん。絶対にこの人からもらえるからって、なだめすかされた」
「絶対?」
「パパは目の前のボールガールにお小遣いを渡してボールを捕ったら自分の娘にくれるように頼んでたみたいなの」
るるたちのいるシートの目の前にユニフォーム姿のボールガールがグローブを構えて立っていた。
小さなるるはやっと落ち着いて、野球観戦に戻ったようだった。
「でも、この日は全然ボールガールのところにボールが飛んで来なかった」
確かにファールボールは観客席の中ばかりで、ボールガールの子はずっと暇そうにしていた。
カーーン!
またファールボール。
観客席に飛んで来た。せめてるるの近くに来てくれればチャンスはあるけど、それすらなかった。
そういうのが何回も続いて、回も7回に差し掛かっていた。
小さなるるはすでに野球帽を目深にかぶって全身で怒りを表すようになっていた。
隣のパパの困った様子がいたたまれない。
カーーン!
またファールボール。
今度のはるるの直ぐ近くに飛んで来た。
ボールガールがナイスキャッチ。
誰に渡すか辺りを見回す。
るるはそれを見てなかったせいで反応が遅れ、ボールガールはるるの後ろの席の男の子に渡してしまった。
るるはそれを見て今にも泣き出しそうな顔をしている。
宥めようとして伸ばしたパパの手を思いっきり払いのける。
すると、その男の子がるるの元に駆け寄って、もらったボールを手渡した。
周りの観客席から拍手が沸き上がる。
たまたまそれがオーロラビジョンに映し出されていたから、野球場中が大歓声に包まれた。
ヒーローとヒロインの誕生だ。
大写しの画面の中で、るるがその男の子にありがとうの代わりに、ほっぺにチューをした。
歓声はさらにさらに大きくなって、球場全体が揺れんばかりになった。
俺たち二人の会話もあらん限りの大声になる。
「俺これ動画で見たことあるかも」
「すごく有名になったもん」
動画を見た時は気づかなかったが、その大歓声の中で、パパがるるの耳元で何か言っていた。
その後のるるの仕草が不自然に見えたので聞いてみた。
「パパになんて言ってもらったの?」
「さすが淫乱女の娘だ。スケベ男が寄ってくるって」
「まさか、そんなことを」
目の前の幸せいっぱいの親子が、内実は修羅だったなど想像できなかった。
「信じられないでしょ。でもパパは確かに言った」
「これって、玄関の時より後の事?」
「忘れちゃった。でも、多分前」
場内の歓声は落ち着て来たのに、野球場の揺れがますます激しくなってきた。
おかしいと思ったら、
「次行こ」
るるが言った。
スタンドの階段がガタガタを音を立てて上から一段一段はずれだす。
それが俺たちのいる段に次第に近づいて来る。
最後に足元の段が抜けて、再び二人は真っ黒G空間へ放り出された。
「ヒャッハー!」
るるは心底楽しそうだ。
俺はそれを見て、これはパパの悪行をあばき出す青葉るるの思い出の旅なのだと思った。
次に来る思い出を考えると気が重くなってくる。
そして、その行き先にはあの蛇男が魔王となって待っているのかと思うと、
正直俺は、
「ヒャッハー!」
とは浮かれていられなかった。
「ショウっちはイッヌでしょ。難しく考えないの」
るるの声がする。
そうだった。俺は無敵の全裸イッヌだった。
何も考えないで飼い主のるるの言うことを聞いていればいいんだ。
都合のいい時だけイッヌになれるって、何て幸せなんだろう。
「きゃわーーん!」
真っ暗なG空間に俺の雄叫びが鳴り響いた。
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ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
るるの野球観戦の思い出です。
そこで父親から毒を吐かれる少女るる。
いわれなき侮蔑は少女の心に深い傷を残します。
次回の更新も月曜の予定です。
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今後も『すたうろらいと・でぃすくーる』をどうかよろしくおねがいします。
真毒丸タケル
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