さんのじゅう もどったところは?

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さんのじゅう もどったところは?

 気付くと見たことのある真っ黒い毛だらけの山があった。 どうやらケルベロスの尻側に寝ころんでいるようだった。 「「ちょ、まて。次は俺の番だぞ」」 尻を目の前にして、2つの頭が舌をぺろぺろ出しながら言い争っている。 どうやら肛門舐めの取り合いをしている所らしい。 「尻の穴はこいつらにまかせて、あなたのお相手はあたしがします」 セリフを言うときやや遅れる真ん中の頭がしっぽ越しに言った。 「「「ひゃっ!」」失礼」 右の頭が左の頭を出し抜いて一舐めしたのだった。 「ずるいぞ。俺が2回舐めたらお前って決めたろう」 「うるさい。お前が2回ってのが気に食わんのだ! 俺は舐めたいときに舐める!」 「ならば、勝負だ! どっちが舐めるのがうまいか!」 「おう。望むところだ!} 右と左の尻舐めバトルが始まった。 「おつかれさまでした。いかがでしたか?異世界転生は? 「「ひゃ!」」」 真ん中も冷静を装ってはいるが、尻の穴が気になって仕方がない様子でそわそわしながらしゃべる。 「わるくなかった」 「それはよかった。「「ひゃっ!ひゃっ!」」失礼」 右の頭が2回連続で舐めたのだった。 「でも、やっぱり元の世界に帰りたい」 元の世界の俺は学園一の才女にして超絶かわい青葉るると付き合って、 ガチャでプラチナアイテム2つも引き当てて、 SNSのフォロワーが一気に1500増えて、 毎日3件の殺害予告が来るようになった。 有名人の仲間入りをして、これからセレブ人生が始まろうって時に、 黒づくめの一刺しで台無しになった。 「死んだって言うのを無しにして、もう一度やり直せないだろうか?」 「それは、難しいですね。死んでますから」 「だよな。で、俺はお前に食い殺されるの? それとも」 地獄行きだろうか。 それを口にするのは怖かった。 「「「ひゃっ!」」これ何度やっていい感じなんです」 「知るか!」 気を悪くしたのか、神妙な面持ちになった。 そして恭しげにのたまった。 「閻魔様から預かってるものがあります。読みます」 閻魔様って本当にいたのか。 てか、ケルベロスは西洋で、閻魔様は東洋の産物だよな。 ここは、東西混交地獄ってことか? 「「「表彰状。条時ショウ殿。 あなたは、地獄よりの逃亡者を退治して、地獄界の秩序を見事取り戻してくれました。 よって、その功績を称え、地獄の上等兵卒に任命します。 地獄代表 閻魔大王」」表 閻魔大王」 ケルベロスの左右の頭が表彰状を咥えて恭しく差し出してくる。 その口、尻舐めたばっかりだろ。きたねーな。 と思ったが、ここは黙って受け取る。 「ありがとうございます。で、俺はどうなるの? 地獄で永遠に働かされるの?」 と言うと、 「「「あ、忘れてました。これ閻魔様からのプレゼントです」」です」 と、真ん中の頭が咥えた赤と緑の包装紙の箱を俺の目の前に落とした。 「開けていいの?」 「「「どうぞ、ばりばりっと」」っと」 こういう時の中身って何だろ。 まさか前から欲しかったノイキャンイヤホンじゃないよね。 それはないか。クリスマスプレゼントじゃないもんな。 ところがだ。 「おーーー。ノイキャンイヤホン。しかも純正。ありがとう、閻魔様」 俺はさっそくつけてみる。 ケルベロスが何か言ってるけど、口パクだ。 「聞えない。外の音なんも聞こえない」 3つの頭ふって何か言ってるけど、まったく聞こえない。 さすがノイキャン。 で、これ2回タップするとノイキャンでなくなるやつだから。 ポンポンっと。 「「「……」」なら」 「何? もう一度言って」 その間に足元の断崖が崩れ始めて、 俺はバランスを失って、そのまま地獄のさらに奈落の底へと吸い込まれていった。 「……おい、上等兵殿」 〆子の心の声が聞こえる。 「ショウくん」 きららの声だ。 「目を覚ませ」 俺、どうしたんだろう。 目を開けて見る。 俺は〆子に手を握られて床の上に寝かされていた。 なんだか、すごく懐かしい感触だった。 イテテ、頭が痛い。 「俺どうしたの?」 「急に倒れて気を失ってたの」 きららが言った。 「じゃあ、るるの全裸イッヌになって魔王を退治したのは?」 「何を言っている?」 〆子だ。 「青葉さんがどうしたの?」 きららはアルファ組でるると一緒なのだった。 「るるは全裸イッヌを連れて来てる?」 「連れては来てるけど、さすがに校内までは」 「なら全裸イッヌは今はどこに?」 「校門に繋いであるみたいだけど。それがどうかしたの?」 俺は聞き耳を立てて校門を見てみた。 そぼ降る雨の中、髭面の全裸オヤジが門扉の鉄柵に鎖で繋がれ潮垂れていた。 るるの全裸イッヌはまだ健在だった。 親父を退治し、るるのトラウマが取り去られたから、全裸イッヌなど必要なくなったのではなかったのか? ということはあの経験は気を失って見た、ただの夢だったということか? 「「「えー、聞こえますか?」」すか?」 「ケルベロス!」 俺は半身を起こして見回した。 「ショウくんどうしたの?」 きららが心配そうに聞く。 「「「プレゼントのテストです」です」」 そうだ。俺は閻魔様にノイキャンイヤホンをもらったんだ。 やっぱり、あれは夢ではなかった。 俺は手で耳に触れてみた。 「何もない」 〆子ときららが怪訝そうに俺を見ている。 「「「あ、プレゼントはスキルですから」」から」 「どんな?」 「「「地獄耳です。地獄の亡者の声が聞えます」」ます」 また耳関連のスキル。 「「「じゃあ、これで」」で」 何も聞こえなくなった。 「上等兵殿、しっかりしろ」 〆子が掌を強めに握ってきた。 俺は二人の顔をじっくりと見直した。 るるの彼氏だった世界とは違うが、元の世界に戻ったんだという感覚がわきあがってきた。 〆子の手の温もりが俺をこの世界に馴染ませてくれる気がした。 「大丈夫。すぐによくなるよ」 きららが励ましてくれた。 混乱しているけれど、俺はこの状況を受け入れることにする。  それにしても気になるのはるるだった。 るるはまだ全裸イッヌを連れていた。 やっぱり魔王は倒せなかったのか? るるの気鬱はそのままなのか? どこかか腑に落ちない気がするけれど、俺の異世界転生は終わってしまった。 「で、今日は何日?」 「7月6日の5時限目の休み時間。次の時間は小野先生の古典だよ」 きららが言った。 まさか今日はあの「しんどい一日」? そして次が板書魔王の時間だとすると、 今度こそ切り抜けて、きららの18歳の誕生日を迎えなきゃってこと?。 異世界からもどってこれは、いきなりすぎる。 --------------------------------------------------------------------------- ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。 異世界から戻った条時ショウ。るるの彼氏だった世界でなく、 大本の〆子やきららと一緒の世界に戻ってきました。 魔王をやっつけてるるの気鬱を解消したと思ったのに、これは一体……。 ご無沙汰していました。すっごいひさしぶりの更新です。 今後は週一で更新していきたいと思います。 三章は20話まで続きます。 スター、本棚登録、スタンプ、コメント等足跡を残していただきますと、日々の励みになります。 今後も『すたうろらいと・でぃすくーる』をどうかよろしくおねがいします。 真毒丸タケル
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