さんのじゅうよん 3匹の兄弟

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さんのじゅうよん 3匹の兄弟

「チョコ、遊んでたらなくなっちゃうよ」 俺が二階の廊下でお気にのタオルケットで戯れていたら、るるが階段の所から顔を出して言った。 「わん?」 「ご飯だよ。みんなもう食べちゃってるよ」 「わんわん」 「はやくおいで」 「わんわわん」 ご飯を忘れて夢中で遊んでいたなんて。 それにしてもあいつら薄情だな。 兄弟だろ? 普通は誘ってくれるもんじゃないのか? 俺はるるが待つ階段の所まで行って、 「わんわわんわん(だっこしてくれ)」 とせがむと、るるは俺の腹の下に手を差し入れてそのまま抱きかかえてくれた。 「れろれろ」 俺はお礼にかこつけてるるのほっぺを嘗め回す。 全裸イッヌの時は絶対にこんなことさせてくれなかったけど、今俺は豆柴だからヘコヘコ以外なら大概の事はさせてくれる。 この間ついたまらなくなって、るるの足首にしがみついてヘコヘコしたら、 るるに首根っこをつかまれて目の前につるされ、 「メ!だめよ。お行儀悪い」 って叱られた。 それもなんだか嬉しかったりしたが、以来二度としないことにしている。  下の階のリビングへ行くと、既に2匹の豆柴が餌のトレーに鼻先を突っ込んで食事をしていた。 るるは、 「さあ、お食べ」 と俺を端っこの餌のトレーの前に置いた。 「おそかったな兄弟(キョーデー)」 黒柴のアイス。長男だ。最近るるとみんなで観たヤクザ映画のせいで言葉遣いが乱暴になってる。 気にくわないことがあると、すぐ眉根を寄せて、 「吐いた唾飲まんとけよ!」 とか言う。 「先に頂いてたよ」 こっちは茶柴のミント。次男だ。頭がよくていつも冷静。 俺のことを見下してるっぽいところがある。 俺たちは同じ日に同じところで生まれた3兄弟だ。 3匹合わせてチョコミントアイス。 るるが名付けてくれた。センスいいだろ? 「わうきゃうわう(カリカリうめー)」  腹がいっぱいになった所でるるについて二階に上ろうとしたら、 「るる、お散歩に行ってきなさい」 とキッチンの奥から声がかかった。 「朝行ったばかりだよ、ママ」 「お客さんが来るから、犬がいたらうるさいでしょ」 るるのママは俺たちのことがあんまり好きじゃない。 そのことは最初に会った時から知っていた。  俺たちはブリーダーのところで生れてすぐペットショップに送られた。 他にも兄弟姉妹がいたみたいだが、そのペットショップへ行ったのは俺たち3匹だけだった。  ペットショップで飼い主が決まるのを待っているとき、るるが父親とやって来た。 るるはいろんな子犬をゲージから出してもらってつぎつぎと抱っこしだした。 品定めという感じではなかった。 やがて俺の番になった。 「パパ、あたしこの豆柴がいい」 るるが言った。 父親は困った顔をして、 「今日は抱っこするだけって約束だよ」 るるは父親をきっと睨んで、 「るる豆柴が飼いたいもん。なんでだめなの?」 「うちはママが犬がダメだからだよ」 それを聞いたるるが、店中に響く大声で、 「いやだいやだいやだいやだ」 と俺を抱きしめたまま体を激しく揺すって駄々をこね始めた。 るるの父親はその場で頭に手を乗せて弱り果てた様子だ。 そうするうち、るるに強く抱きしめられた俺は息が出来なくなってきた。 やがて、 「ぐうううう」 目の前が真っ暗になった。 「お客様、ワンちゃんが苦しんでます」 いつもうんちの世話をしてくれてるやさしい店員さんが止めに入る。 るるの腕の中から解放された俺は気を失って動けなくなっていたらしい。 店員さんが、俺の鼻から息を吹き入れてくれなかったら俺はそのまま死んでいたかもしれない。 俺が介抱されて息を吹き返すのを側で見ていたるるは、 「ごめんね、わんちゃん。ごめんね」 と泣きじゃくっている。 ペットショップに来ていた客が周りに集まりだした。 「店長に会わせて欲しい」 るるの父親がそう言うと俺を抱えた店員は、 「こちらへ」 と父親とるるをバックヤード連れて入った。 店員が店長さんに弱った俺を見せながら説明しおわると、開口一番父親は、 「すみませんでした。この犬はうちが買い取ります」 と言った。 それを聞いた店長さんは、 「そういう問題じゃないです。この子のことを考えると乱暴なことする人にはお迎えして頂けないです」 とその申し出を断る構えを示した。 すると父親が、 「ここにいる豆柴全部買う。それならばどう?」 店長は一瞬それも退けようとしたが、豆柴一匹50万という値のことが頭をよぎったのか、 「現金ですか?」 と交渉に応じる態度に変わった。 そうして俺たち3匹の兄弟は、青葉家の一員になったのだった。  次の週、俺たちは段ボールのキャリーバックに入れられて家に連れて来られた。 リビングで蓋を開けた際の俺たちを見たるるの母親をの顔を今でも思い出す。 両の手を口に当てて、 「ヒッ!」 と叫び声をあげてその場にへたり込んでしまったのだ。 そして助けでも必要としているかのように、父親のことを見上げたが、 その時の父親は、 「るる、犬はバイ菌だらけだから、触ったら必ず手を洗いなさい」 とだけ言ってリビングから出て行ったのだった。 しばらくして母親は不満を全身で表しながらキッチンに立ち、 誰に言うともなく、 「あたしが犬が嫌いなの知ってて何で?」 「しかも三匹も。気持ち悪いっつうの」 「いちいちあたしに嫌がらせするんだから、るるは」 と吐き捨てるように言っていた。 それはるるには聞こえていたのだと思う。 るるは俺を抱き上げて何度も何度も俺の頭を撫でさすっていたが、 やがて俺の鼻先にしょっぱい水が垂れて来たのだった。 --------------------------------------------------------------------------- ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。 豆柴三兄弟がるるの家に来た時のいきさつです。 どうやらるるのママはチョコたちのことが嫌いなようです。 ご無沙汰していました。ひさしぶりの更新です。 またもや、またもや、ずいぶん間があいてしまいました。 すみません。 スター、本棚登録、スタンプ、コメント等足跡を残していただきますと、日々の励みになります。 今後も『すたうろらいと・でぃすくーる』をどうかよろしくおねがいします。 真毒丸タケル
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