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ダイヤルロックは音が命。
ゆっくりダイヤルを回し、扉に当てた聴診器を頼りに耳を澄ませる。
正解は、選ばれし者の耳にだけ届く音だ。
鍵開けを依頼されたのは重厚戦車のような骨董金庫。旧家の奥にひっそり眠っていた開かずの金庫だ。
江戸から受け継ぐ藩士のお宝が眠っていると家主が自慢していた。鍵を開けられる鍵師を探している、とも言っていた。
開けられたら、そりゃあたくさんの褒美が手に入るんだろうな。
自分は、音を聞ける選ばれし者だ。音が変わる瞬間が分かる者だ。
「早くしろよ! 夜が明けちまうぞ!」
「うるせーよ! あと五分待ってろ! あと五分だ!」
東の空が白むのが雨戸の隙間から見えた。
焦る気持ちを深呼吸で落ち着け、再びダイヤルを回す。ラストチャンスのダイヤルを回した。ガチンという重い音が手に解錠を伝えた。
「やった! やったぞ!」
分厚い金庫の扉を開ける。
「⁈」
中は伽藍堂。紙が一切れ。
〝掛かったな。不届き者は成敗す〟
パトカーのサイレンが聞こえる。
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