奉呈に際しまして

1/3
161人が本棚に入れています
本棚に追加
/367ページ

奉呈に際しまして

 いえ、此度の一件に関して手前は当然働きかけてなどおらぬわけです。  ご承知おきの通り、贖罪ひとつとったところとて数えるのも倦むほどの年月を要するつまらぬ紙魚の分際にございますれば、かように美事なる御縁の綾を如何にして差配することなど叶いましょうや。  しかしながら、みこころうつしの逸品を御前に奉呈するに際しまして、各々が生まれるに至った顛末を奏上しますくらいは、この非才の身にも赦されましょう。  ええ、ええ、彼女の目を借りるのが一等上策と存じます。  迷い子のようにあどけない目で  あの真景繚乱百鬼夜行を見つめていた彼女ーー  白銀の紙雪を、情焔のほとばしりを、  妖怪達がめいめい自由に振る舞う様を、  ただ単純に、  愛した彼女ーー
/367ページ

最初のコメントを投稿しよう!