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(きもちいい……こっちから……?)
すぐ左手に薄暗い路地裏があり、風はそちらから吹いている。
ふらり、と中に足を踏み入ると、ひんやりとした心地よさが成海を包み込んだ。少しずつ、熱を持った身体が鎮まっていく。ホッと胸をなで下ろしたそのとき、
――しゃん……
軽やかな鈴の音が、路地裏の奥から聞こえた。
(なんだろ、今の……)
なんとなく惹かれて、成海は奥へと歩みを進めた。
路地の奥のどん詰まりは、開けた空間になっている。だからだろうか、それまでの薄暗さからは幾分明るくなっていて、その中に現われた光景にしばし成海は唖然とした。
鎮守の森と見紛うほどに、広壮と生い茂った木々――しかしその中央に佇むのは社ではなく、二階建ての堂々たる日本家屋だ。規模は小さいものの、丁寧にしつらえられた前栽もある。玄関口から並べられている飛び石を目で追っていくと、最終的に自分の足許に辿りついた。
(な、なんか随分立派だけど……ばあちゃん家の近所に、こんなところがあったんだ。看板もある……あ、もしかして今流行りの古民家カフェ、とかかな)
それなら、中で冷たい飲み物でも一杯――そう思って、成海は飛び石の上を進んでいく。十を数える頃には入り口の前に辿りつき、その上に掲げられた看板をまじまじと眺めることができた。黒檀製と思しき重厚な造りの看板には、たいそう卓抜した筆致でただ三文字、こう書かれている。
雪魚堂、と。
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