目録ノ弐 矢絣、燕求むは葡萄か空か②

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目録ノ弐 矢絣、燕求むは葡萄か空か②

   ◇◆◇  そんなに疑わしいならどこぞとすきなお店に連れて行っておくれよ、証明してみせるから――あっけらかんとそう供述する魚ノ丞を引っ張って、成海は晴海屋に直行した。他ならぬ身内の和菓子屋だ、共謀して担ぐことはできまい――そう息巻く気持ちは、すぐに鎮火した。  幸い菜穂海は席を外していて、店番の毅一が喫茶スペースで寛ぐ常連のご近所さんの相手をしているところだった。ぎこちなく笑いながら入っていく成海の隣をすたすた歩いて、 「あれま、柚子水羊羹なんてこいつぁ洒落てるね。お兄さん、こいつを三つ包んでくださいな」  などと注文する。そこからは、佐々木家の再現だった。  常連さんと歓談していた毅一はふと口を止めると、自然な仕草でショーケースから柚子水羊羹を三切れ出して、持ち帰り用に包み、カウンター越しに魚ノ丞に手渡した。そして礼を言う彼に反応することなく、再び常連さんと他愛無い会話を始めたのだ。  常連さんも常連さんで、妙なところで話の腰を折られたのにまるで気にする様子がない。そもそも、店主の孫娘の成海がこんな胡散臭い男を伴っていることに、ただのひとつも言及がないのだ。  たまりかねて、「あ、あのっ、お金……!」と声に出した成海に、毅一が申し訳なさそうな笑みを向け、 「すみませんお嬢さん、和菓子を買いにいらしたんですね。師匠が手がけられたものはもうぜんぶ出ちまって、残ってるのは俺が作ったのばかりですけど……いいですか?」  などとこれまた明後日なことを口にするので、「……じゃあこの、和三盆の詰め合わせで」と返すので成海は精一杯だった。そうして晴海屋を出たところで、魚ノ丞がカラカラ笑いながらこう言ったのだ。 「心配しなくても、おいらが飲んで食べてしたぶん、うどん屋さんにも和菓子屋さんにも、じきにちゃあんと対価が支払われますよ。それ相応の、ご縁としてね」
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