カウント・ゼロ

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 * * * 「どうだ、テディ。ワシの新発明は」 「これはご(ライス)じゃないか!」  緊張のあまり正常な判断ができなかったが確かにこれは米飯の匂いだ。光るような白い粒が食欲をそそる。 「開発したって、これ?」 「ああ、そうだとも。で、どうだって聞いてるんだよ」 「で……、できてるよ。それも美味しそうに」  テディは全身の力がみるみると抜け落ち、床面にへたれこんでしまった。大きく息を吐き出すと、安堵の知らせが血管を通って全身に伝わった。 「父さんは武器の開発をしてたんじゃなかったの?」  自分が感じた戦慄なんぞまるで知らなかった様子で父は息子の感想を聞いて笑っている。 「戦争は武器だけで行うものではないのだよ。これはだな……」  父の開発したものは炊飯器(ジャー)と言われるもので、日本のどこの家庭にもあるらしいのだがそれを初めて見たテディにはどう見ても爆弾にしか見えなかった。電源がなくても内臓バッテリーで調理が出来るように開発したこれ一台あれば戦場のどこへ行っても白い飯が食べられるという行軍の必須アイテムの完成に父は大喜びしている。 「ところでテディ、どうした?息が乱れているぞ」 「いえ、何でもない。大丈夫だよ……」  さっきまでのことを話せば一生の笑い種になるのは必至だろうし、父は研究の成果に大喜びで自分のことなど聞いてもないだろうから、テディは何も言わなかった。 「ニッポン人はライスをエネルギー源としているのだよ。これはパンよりも効率が良く我々も見習わなければならん」  父は持ってきたしゃもじと言われる道具で飯を茶碗と言われる日本の食器に入れテディに差し出した。 「食べてみろ、味は私が保証する」 「ははは……、そ、そうだね――。ありがとう」  テディは茶碗に盛られた父の自慢の作品の成果を手にすると、力の無い笑いで答えることしかできなかった。 「テディよ」 「何でしょう?」 「ニッポンの諺でこういうのがあるんだ」  父は立ち上がり得意気にこう言った――。
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