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波打際の彼女
その女はいつも、電車が来るまで本を読んで過ごしていた。
改札の横に設けられた、小さな本棚。そこには利用客が読み捨てていった本や近くの図書館の除籍本なんかが集められていて、退屈した旅行者にちょっとした暇つぶしを提供していた。
波打際。
この本棚を、俺は勝手にそう呼んでいる。さまざまな人生ならぬ本生を経てたどり着いた本たちは、俺がよくシュノーケリングをする海岸に流れ着く、遠い異国の瓶や椰子の実なんかを連想させるから。
彼女はこの“波打際”の熱心なユーザーだった。実にさまざまな本を、そいつは待ち時間を利用して読破していった。テレビで話題になった文学賞の受賞作。俺ですら名前を知っている、明治時代の文豪の大作。それにうちのクラスのインドア派たちが好んで読む、アニメが表紙の小説まで。要するに、物語ならなんでもよかったらしい。
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