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予兆、なし?
「お疲れ様です」
事務所に西垣と実咲が戻ると、既にパトロールを終えた東海林と北柴はそれぞれ自分のデスクに座っていた。
「どうだった?」
「体調不良による早退だと畑中先生は言っていました。担任の横山先生にもそう伝えたみたいです」
西垣と実咲は畑中と話した後、念のため横山にも話を聞きに行った。横山も畑中から聞いた内容と全く同じだった。横山は自分のクラスでいじめの予兆があるようなことはないとも言っていた。
「生徒たちから、彼女に対するいじめがあるような話も出ていないですね」
北柴は、相談データベースをパソコンで確認している。東海林は腕を組んだまま、渋い顔をしている。
「まだ浮き彫りになっていないだけかもしれないじゃないですか」
なんとかいじめとして捜査に乗り出そうとする実咲。
「落ち着け、南雲」
なだめるように東海林は実咲に声を掛ける。実咲は不満そうな顔を下に向ける。その様子を見て、東海林は全員に向かって言った。
「今日の勤務時間内の調査だけにしよう。相談に来た記録は申し送りに残す。交代の班には笹崎由香里に関する話が来たならば、詳しく聞くようにとも伝えよう」
学内捜査部隊は、一校につき四班で対応する。勤務は警察と同じく、二四時間の四交代制となっており、第一当番(日勤)・第二当番(夜勤)・非番(夜勤明け)・週休(休み)である。
第一当番日の勤務は九時から一七時、第二当番の勤務は一六時から翌日の十時まで、非番は十時に第二当番と交代をし、そのまま休みとなり、非番は一日休みとなる。
実咲たちの班は、今日第一当番日であり、次の勤務は明日の十六時からになる。時計を確認すると、今日の勤務終了まで残り三時間しかなかった。
「北柴と南雲は校内パトロールをしつつ、生徒や教師からの相談を受けた際はその対応。俺と西垣はネットパトロール。SNS上に何か笹崎由香里に関することが記載があれば情報を追尾。以上、解散」
東海林の号令と共に、実咲たちは指示された業務をすることになった。無線機をつけ、実咲は北柴と共に事務所を出た。
「パトロールで何か見つかりますかね?」
何かを言いたげな顔をして実咲は北柴に声を掛ける。北柴は振り向くことなく、冷静に言う。
「見つからなくても、パトロールはする」
「わかってますよ。でも気になるじゃないですか、笹崎さん、何か話したそうにしていたから」
「西垣さんに、というのが気になる。相談記録もない。特に思い当たるような様子もなかった。本人に訊かないとわからない」
もどかしそうに言いながらも、北柴は歩を進める。
授業中ということもあり、生徒は廊下に出ていない。どの教室からも教師の授業を進める声だけがし、時折生徒が教師からの問いに答えている。
「とりあえず、俺たちは今はパトロールに集中」
「了解です」
パトロールをしている間も笹崎のことが実咲の頭から離れなかった。
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