6人が本棚に入れています
本棚に追加
何が、目的?
「シーザー暗号は暗号論理上、最も知られて、シンプルな暗号の一つだ。単一換字式暗号の一種で、平文の各文字を、辞書順に三文字分シフトして暗号文を作る暗号。単一換字式っていうのは、特定の文字を、特定の数だけ、辞書の順番で前後にずらすというルールがある」
スラスラと説明をする北柴はパソコンから目を外さずに、アルファベットの表を作っていく。北柴が何を作っているかわからずに、北柴の作業を実咲は見ている。
「読み解く鍵としては、いくつ文字をずらすかの数字が必要だけど、カギとなる数字が何かがわからない」
表と英文をエクセルに書き込み、腕を組んで思案する北柴。
「数字って、ここに書かれている26とか23ではないんですか?」
「アルファベットは二十六文字。26では一周回ってしまう。アルファベットのシーザー暗号を作る場合26以上の数字は使われないのが特徴だ。そうすると、23なのか」
カタカタと変換表を作っていく。変換表を作るとすぐに、今回の書き込みの文を変換していく。
『xipp igo paa tel qmoi igo hipp ep cerk26 wv23』
「もっと意味が分からなくなりましたね」
「ずらす数が違うのか、それともシーザー暗号ではないのか」
二人は眉間にしわを寄せながら、変換結果を見る。変換結果から何かを思い起こさせるようなものはない。
「他に暗号解読で思い当たりそうなのはないんですか?」
「俺は暗号解読のスペシャリストじゃない。期待されても困る。でも解読しないと始まらないから考えているだけだ」
「それはそうですけど……」
もごもごと口ごもる実咲。北柴は頭を掻きながら実咲に提案をする。
「違う視点から考えるか。何故、SNSに書き込みをしたのか」
「書き込んだ人が自己顕示欲の塊で犯行を広く知られたいから、とか?」
「他に、考えられることは?」
間を開けることもなく、北柴は実咲に質問投げかける。実咲は思いついたことから言葉にしていく。
「えっと、愉快犯。いたずら目的」
「いたずら目的でこんな手の込んだことをするか?」
すぐに北柴に却下をされるが、実咲はめげずに考える。
「他には……誰かに気づいてほしいから」
「何を?」
「誰かに助けを求めてる?」
「それだったら、なんで暗号なんだ? 俺たちに素直に助けを求めれば良いだろう」
最初のコメントを投稿しよう!