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これは、もしかして?
北柴の意見は最もであるが、実咲の考えは違った。
「助けを求めた経験があるけど、逆にそれがいじめを助長させられた経験がある、とか」
「やけに具体的に想像できるな」
感心したように北柴は実咲を見る。
「似たような経験があるだけですよ」
普段の実咲からは想像が出来ないほど、冷たい声だった。北柴は驚いて実咲の顔を見るが、すぐに普段通りの明るい顔に実咲は戻っていた。
「お前の経験に基づく推測ならば、暗号の解読に難しい知識はいらないな。もっと単純で、わかる人には簡単に伝わるようなものだ」
コツコツと右こぶしを顎に当てながら、北柴は暗号をもう一度じっくり見る。
「私たちに気づいて欲しいならば、私たちがわかるようなもので作られているんですよね。私たちが普段使っていそうなもの」
しばらく二人は思いつく限りのものをノートに書き込んでいった。しかしピンとくるものがなく、筆が止まってしまった。
それからどのくらいの時間がたったのだろうか。ふいにキーボードを打ち始め、何かを検索している。
「通信通話表。無線局運用規則第十四条別表第五号通話表か」
北柴は通信通話表を画面に呼び出した。そこには和文と欧文の二種類用意された。
表と英文を見比べながら、北柴は書かれている単語をアルファベットに置き換えていく。
『HELP HIM. DAY26 SR23』
「彼を助けて……当たり、ですかね」
「だが、これだと誰が『彼』なのかわからない。いつの二十六日なのか、SR23は何か。まだわからないことが残っている」
まだわからないことが残っているが、誰かが『彼』を助けてほしいことだけは分かった。SOS信号を受け取った以上、学内捜査部隊は被害者の無事を確認できるまで、もしくは事件となる事案が確認できるまで捜査を進めることが出来る。
「二十六日であるとするならば、今月の期末テストの前日ですね」
実咲がカレンダーを見ると、二十七日から三十日は期末テスト期間と書かれていた。夏休み前の最後のテスト期間であり、最近の生徒たちはテスト勉強に余念がない。
「テストとこの書き込みが何か関係しているのかもしれませんね」
「単純にテストが嫌で書き込みはしないだろうな。『彼』に話を聞かないとわからないが」
トントンとHIMという文字を指で叩きながら、北柴はまだ頭の中で何かを考えている。
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