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家庭訪問、ですか?
西垣も実咲の意見に同意する。しかし東海林と北柴は渋い顔をしたままだ。
「書き込み以外の明確な何かが起こっているわけじゃない。簡単に踏み込むことは出来ない」
北柴は口を開いて、重い声で言う。実咲も北柴が言いたいことは分かっているが、既に笹崎のために何かしたい気持ちでいっぱいになっている。
「それじゃ、あれをしてみようか」
「何をですか、西垣さん」
「家庭訪問」
東海林と北柴は顔を見合わせて納得しているが、実咲だけはわからないままだ。
「家庭訪問って、あの先生が行く?」
「そう。まあ、教育的には学校内での生徒の様子や成績を報告するものだけど、学内捜査部隊においては別の意味がある」
西垣が優しく実咲に諭すが、実咲はピンときていないらしく首をかしげている。
「別の意味?」
「学内捜査部隊執行法第十五条 学内で気に掛けることがあれば、犯罪未然防止のための警邏として家庭訪問を許可する。今回はそれが当てはまるんじゃないかと思います、班長」
北柴は東海林に提言をする。
「そうだな。今回はそれが合いそうだな。南雲と西垣は笹崎の家に家庭訪問をしてきてくれ。俺と北柴はもう一度報告書とデータベースの確認をする」
時計を見るともうすぐ三時になろうとしていた。もう少しで外も明るくなってくる。東海林は改めてメンバーに指示を出した。
「家庭訪問とデータベースの再確認は、休憩を挟んでからにしよう。集合は十時に事務所だ。一度解散」
「朝一に家庭訪問はダメでしょうか?」
「ダメだ。少なくとも昼までは事務所で待機。休憩して頭をしゃっきりさせろ。それに早朝に家庭訪問は出来ない。休日に訪問が出来るのは十時から十五時だ。それがルールだ」
冷たい声で北柴は実咲の先走った行動を止めた。
「ルールを逸脱した行動は、違法捜査に該当する。研修で教わったことも覚えていないのか?」
「す、すみません」
北柴の意見で実咲は思い出した。
学内捜査部隊はその特別な立ち位置のため、学内捜査部隊執行法に定められた行動以外は全て違法捜査に当たるとされている。拡大解釈も類推適用も認められておらず、きちんと法手続きに則らなければならない。
「急ぎたくなる気持ちもわからんでもない。だが、ここは堪えどころだ南雲」
東海林も北柴の意見に同意するように、実咲を宥める。
「わかりました」
実咲ははやる気持ちを押さえて、報告書作成に頭を切り替えた。
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