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理想はなんですか?
残念そうに言いながら、東海林はコンビニの袋から弁当を取り出す。実咲が腕時計で時間を確認すると、そろそろ昼休みになるところだった。実咲のこれからの予定は学校内のパトロールだ。手早くパトロールの準備をする。
「南雲、見回り行くぞ」
「了解です」
北芝に声を掛けられた実咲は、北柴の後を追うように事務所を出る。
学内捜査部隊の主な仕事は、学校内の見回り・SNSなどのネットパトロール・各種相談受付・警備である。
学校内の見回りは、北柴のように鋭い目つきで見回ることではない。何気ない目線で、気になるところがないかを確認することが大切である。そうでなければ、児童・生徒たちは学内捜査部隊に恐怖を感じてしまい、のびのびと学校生活を楽しむことが出来ない。イメージとしては、教師が楽し気に雑談をしながら歩いている感じである。
「北柴さんはどうして学内捜査部隊に志願したんですか?」
常に強面で冷静で、メガネの奥からは鋭さを隠しきれない目線で校内を見て回っている。目つきの悪さを隠すために北柴は眼鏡をかけているのではないかと実咲は疑っている。
「そういうお前はどうなんだ?」
「私は、いじめと総称されること全てを無くしたいから、志願したんです。いじめと言っても実態は犯罪ですからね。子供の時からそんな犯罪に手を染めてほしくはないんですよ」
熱く語る実咲を北柴は相槌を打つわけでもなく、ただ聞いている。はたから見ると不真面目な生徒そのものだ。
「学校は教育を受ける場所です。安全な場であるべきなんです」
「暑苦しいな」
「暑苦しいって何ですか! 私は私の理想とするところを言っただけですよ」
少し怒りながら実咲は北柴に言い寄る。
「理想はそんな簡単じゃない。目の前の事実をきちんと掴めるようになってから言え」
「北柴さんに理想はないんですか?」
「俺はただ公平公正、中立の立場で職務に全うするだけだ。理想に燃えていると、足元をすくわれるぞ」
冷たく言い置いて、北柴は実咲をかわして歩いて行ってしまう。実咲は腑に落ちない顔で北柴の後を追った。
昼休み時間いっぱいをかけて、二人は学校内をくまなくパトロールした。途中、武道場裏で告白の現場に居合わせそうになったが、二人は特に気にする素振りを見せずにその場をそっと立ち去った以外変わったことはなかった。
「戻りました」
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