カツアゲ、あります

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カツアゲ、あります

「なんで、カネ、持ってこないんだよ」  学校指定のネクタイはなく、ワイシャツのボタンも三つ外している体の大きい男子生徒が、小柄な男子生徒に詰め寄っている。小柄な男子生徒の後ろには用具庫の壁が迫っている。  小柄な男子中学生一人に対し、大柄な男子生徒が三人。小柄な生徒を取り囲むようにして、用具庫の裏にいる。校庭からも校舎からも離れている用具庫は、体育の準備以外は誰も寄り付かない。 「そんなこと言われても」  メガネを押し上げそうなら、気が弱そうな声で小柄な男子生徒は、取り囲んでいる男子生徒たちに言った。三人の大柄の生徒の中でも一番大きい男子生徒が小柄な生徒を睨みつける。 「カネ持ってこないと、前みたいに困ったことをしてもいいんだな?」  その言葉だけで、小柄な男子生徒はすくみ上ってしまった。一歩一歩大柄な男子生徒たちが、小柄な男子生徒に距離を詰めていく。 「はいはーい、そこまで」  この場に全く合わない明るく、しかし厳しい声が、その場に割って入ってきた。声がした方を男子生徒たちが見ると、そこには大人の男女が一組立っていた。 「強要と脅迫の現行犯で逮捕します!」  やや小柄な女性が、男子生徒たちに対して堂々と言い渡した。男子生徒たちは突然現れた二人をぽかんとしながら見ている。 「まずは、自分自身を名乗れ」  女性の隣にいた、長身の男性は女性を軽く小突いた。女性は不満そうにちらりと長身の男性を見てから、ジャケットのポケットに手を入れた。ポケットから警察手帳に似たような手帳を取り出し、高らかに名乗る。 「警察庁学内捜査部隊第一方面第三機動隊所属志心(ししん)中学校担当 南雲実咲(なぐもみさき)です。あなたたちを強要と脅迫の現行犯で逮捕します」  大柄な男子生徒たちは急に青ざめて、実咲と男性の脇をすり抜けて逃げようと走り出した。しかし、二人に簡単に首根っこを掴まれた男子生徒たちは、あっさりと手錠を嵌められた。 「お、おれたちは未成年なんだぞ」  男子生徒たちの一人が何とか反論を試みようと、実咲を睨みつけて言った。その鋭い目つきに実咲は少したじろいだ。 「未成年だからと言って、なんでも許されると思うな。罪を犯した者は等しく罰せられる、未成年であってもな」  冷たい声で、冷静に男性は男子生徒たちに言い放った。
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