02. 理由

7/7
前へ
/37ページ
次へ
通りを歩く人たちを横目に見ながら純玲は言った ー ねぇ、今井くん・・・ 今、この人たちってそれぞれ きっと何か夢を持ってたんだろうね? でもそんなの、いつか忘れちゃってさ スーツ着て仕事することで 夢を忘れたことにして納得させてるんだろな みんな、 あんなに急ぎ足でどこに行くんだろうね? 「俺らはさ、まだ可能性…あるかな?」 「ん?」 「ほら、どんな小さな夢でも叶えられる…可能性みたいなの」 「もちろんだよ!それは今井くんだけやなくて、私もね」 「そっか、それなら意味があるのかなぁ?」 「え?何のこと?」 「俺が、あの街を目指す理由(わけ)、みたいなの」 その言葉に純玲は一瞬 ポカンとした表情を浮かべたが その直後、全てを察したかのような表情で 「自信、持ってよ!今井くんは自分で思ってるより随分カッコいいんやけん!」 「そっかぁ、そうだね!」 「単純」 「悪かったな、単純で」 純玲は思い出したようにこう言った 「じゃ、なきゃ…人前でなんて歌えないでしょ?」 「ま、それもそうか」 「私も何か夢を持とうかなぁ?」 「それはいいかもね、アイドルになっちゃえば?」 「あはは、握手会来てね」 この日を最後に僕は関西へと進学し 純玲は地元の大学へと通い始めた。 出発の日も少し期待はしていたが 純玲は見送りに来る訳でもなく 「じゃ、がんばってね!」と 絵文字入りのエールが届いただけだった。 結局、僕の思い過ごしだったのだろうか? "違うけど今日はこっちから帰る" あの日、あの場所に純玲が現れた 真意はわからないまま 僕と純玲との時間はここで止まってしまった。 次はいつ会えるのだろう? いや会う機会なんてあるのだろうか? 大きな不安とほんの少しの恍惚が入り交じる中で 僕の関西での新生活は始まった。 そしてひとつ分かったことと言えば なんて僕が見つけない限りは そこにはないこと、だった。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加