01. 雑踏

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それ以来、純玲とは愛菜香とのことで あれこれ話すようになった 毎月のように席が近くになる、 そんな偶然もあってか 会話の回数は増えたものの それ以上二人の距離が縮まることはなかった。 お互いの進路についてさほど話すこともなく、 僕は関西の大学を希望していたが 純玲は地元の国立大を目指すことくらいしか 知らなかった。 それは 間もなく大学受験を控えた12月のことだった 午後からも補習があるのに弁当を忘れた僕は 手持ちの小遣いをはたいて 構内販売のパンを買い込んで 昼食替わりにすることにした。 そこでふと思い出した 「あ、お茶も持ってきてないじゃないか」 仕方なく自販機で買おうと財布を開けた時 残金が50円しか残ってないことに気付いた 「はぁ…」 自販機の前で立ち尽くす僕の背中越しに 聞き慣れた声が聞こえてきた 「今井くん…何しよん?」 「あ、舘野…さん」 「まさかのお金が足りない…とか?」 「正解」 純玲は僕が持つパンの袋を いぶかしげに見つめながら 「ふ~ん」 「な、何だよ」 「何で足りないか教えてあげる」 「え?」 「そんなにたくさん買うからよ、一体パン何個食べるつもりなんよ?」 「これくらいは…無いと足りないかなー、って」 「いやいやいや、それ一度に食べる量じゃないって!」 「そぅかなぁ?」 「じゃあここで提案!」 「何?」 「私がパンをひとつ貰ってあげるから、ジュース代貸してあげよっか?」 「え?いいの?」 純玲はおもむろに財布を取り出し 「はい、これで」 と1枚の500円硬貨を取り出して 僕の掌の上に乗せた。
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