01. 雑踏

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ー 愛菜香のことなら気にしなくていいから 「え?何でそんなこと」 「愛菜香とは親友やけんわかるんよ、あの娘、見た目通りにサッパリしてるから」 「もう俺のことなんて…キレイサッパリ…」 「ま、そう言うことだね」 「それはそれで…」 僕の言葉を遮るように純玲が言う 「今井くんだって未練ないんなら、気にすることないんよ」 「そんなもんかなぁ?」 「そんなもんそんなもん」   いつもこんな感じで聞き流されるが それでも純玲はいつでも僕の味方だ、 フラれて更にネガティブになりがちだった 僕の心を見透かしたように 時には優しく、時には少々棘のある言葉で 励ましてくれる。 気付けば昼休みが終わろうとしていた。 「あ、あと、今井くん…ありがとう」 「え?何かしたっけ、俺?」 「ばあちゃんのこと…」 1ヶ月前のことだった、 病院で働く母親から連絡があり 純玲の祖母が亡くなったことを知った。 その日の夕方、僕は一番に彼女の家を訪れ お悔やみの言葉を告げたのだった。 「あの時、今井くんが来てくれて…ホントに救われた気持ちになったんよ」 「あ、ご、ごめんね、突然訪ねてしまって…」 「うぅん、嬉しか…った」 キーンコーン カーンコーン♪ 始業前の予鈴が校舎に響き渡る。 「ヤベっ!教室戻らないと!」 「今井くん、急ごう!」 「あ、今日の500円…」 「いつでもいいよ、思い出した時で」 二人で息を切らしながら長い廊下を走り抜けた 「今井~!舘野~!廊下は走らないー!」 すれ違った教師の声さえ聞こえないほど 僕たちは夢中で走り続けていた。 「はぁ…セーフ!」 「危なかったね」 僕たちは笑顔で向き合っていた 怪訝そうな顔で見守るクラスメイトの視線など まるて気にしないかのように。 こうして二人だけの時間を過ごしながらも この教室ではさほど話すこともなく 終業後の帰り道は別々、 僕たちは友達以上であるようで 実はまだまだ友達止まりだった。 一人の帰り道、12月だと言うのに 道端に咲く季節外れな紫色の花びらを見つけた 雑踏の中でふと見失いがちな小さな花 そんな風景が何故か今日はやけに目に染みた。 そして紫色の(すみれ)の花言葉が "愛" であることなど あの頃の僕がもちろん知るよしもなかった。
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