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ー 愛菜香のことなら気にしなくていいから
「え?何でそんなこと」
「愛菜香とは親友やけんわかるんよ、あの娘、見た目通りにサッパリしてるから」
「もう俺のことなんて…キレイサッパリ…」
「ま、そう言うことだね」
「それはそれで…」
僕の言葉を遮るように純玲が言う
「今井くんだって未練ないんなら、気にすることないんよ」
「そんなもんかなぁ?」
「そんなもんそんなもん」
いつもこんな感じで聞き流されるが
それでも純玲はいつでも僕の味方だ、
フラれて更にネガティブになりがちだった
僕の心を見透かしたように
時には優しく、時には少々棘のある言葉で
励ましてくれる。
気付けば昼休みが終わろうとしていた。
「あ、あと、今井くん…ありがとう」
「え?何かしたっけ、俺?」
「ばあちゃんのこと…」
1ヶ月前のことだった、
病院で働く母親から連絡があり
純玲の祖母が亡くなったことを知った。
その日の夕方、僕は一番に彼女の家を訪れ
お悔やみの言葉を告げたのだった。
「あの時、今井くんが来てくれて…ホントに救われた気持ちになったんよ」
「あ、ご、ごめんね、突然訪ねてしまって…」
「うぅん、嬉しか…った」
キーンコーン カーンコーン♪
始業前の予鈴が校舎に響き渡る。
「ヤベっ!教室戻らないと!」
「今井くん、急ごう!」
「あ、今日の500円…」
「いつでもいいよ、思い出した時で」
二人で息を切らしながら長い廊下を走り抜けた
「今井~!舘野~!廊下は走らないー!」
すれ違った教師の声さえ聞こえないほど
僕たちは夢中で走り続けていた。
「はぁ…セーフ!」
「危なかったね」
僕たちは笑顔で向き合っていた
怪訝そうな顔で見守るクラスメイトの視線など
まるて気にしないかのように。
こうして二人だけの時間を過ごしながらも
この教室ではさほど話すこともなく
終業後の帰り道は別々、
僕たちは友達以上であるようで
実はまだまだ友達止まりだった。
一人の帰り道、12月だと言うのに
道端に咲く季節外れな紫色の花びらを見つけた
雑踏の中でふと見失いがちな小さな花
そんな風景が何故か今日はやけに目に染みた。
そして紫色の菫の花言葉が
"愛" であることなど
あの頃の僕がもちろん知るよしもなかった。
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