ママ

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ママ

着いたアパートのドアの鍵がかかっていなかった。 またか、と思いつつ貢はそっとドアを開ける。 案の定廊下に倒れて眠っているスーツ姿の女性。 酒と香水の匂いが漂うその体を抱きかかえて、ソファまで運ぶ。 ジャケットだけ脱がせて露出度の高いインナーを隠すようにブランケットをかけて、メイク落としシートで顔を綺麗にする。 それからダイニングに立って炊飯器と冷蔵庫を確認して、まぜるだけタイプと普通のふりかけで味ご飯を作りボールに水をはって小さなおにぎりを作っていく。 味噌汁は豆腐とネギにした。こども用と、おそらく二日酔いのママ用の濃い味を作って置いておく。 後は目玉焼きにプチトマト、ママ用にだし巻きと大きいトマトスライス。 自分用にコーヒーを入れて、残り物で朝食を取っているとお姉ちゃんの杏が起きてきた。 「おはよ、杏。顔洗ったらごはんね」 「んー」 ピンクに赤いドット柄のパジャマを着て、まだ眠そうな顔でとことこ洗面台のほうへ向かう。部屋を覗くと青い同じ柄のパジャマで同じ顔をした弟は爆睡中だった。 休みだし起こす必要もないと思いながら戻ってきた杏を椅子に座らせる。 「ママは?」 小さなおにぎりを箸で上手くつかんで杏はコーヒーを飲む貢に聞く。 「疲れて寝てるから起きるまで静かにしとこう」 杏はソファで眠っている母親をちらりと見る。 その視線には棘がある。
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