ママ

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「お酒くさいし、だらしない」 それが嫌でたまらない。そう言いたげな杏の口調だった。 「杏が今食べているごはんを買うためにママはお酒くさいしだらしなくなるのさ」 こども特有の潔癖性を貢はさらりとかわす。 「でもまあ、正直杏がしっかりしてて助かるよ」 「大人は言うの。ママを助けてあげなさいって」 杏は、大人用のトマトスライスに勢いよく箸を刺した。 「じゃあ私を助けてくれるのは誰?」 「俺」 貢を睨んでいた杏の目が戸惑いの色に変わる。 「俺は杏の味方だから」 頰杖をついて自分に笑顔を向けている貢にこれ以上反抗する術がみつからなくて、杏は静かに箸を動かした。 その間に貢は新しいトマトスライスに差し替えて、杏がぐしゃぐしゃにしたトマトを全部口に入れた。 「俺が証拠隠滅しとくから」 「…ごめん」 バツが悪くなったのか杏が視線を落とす。 しばらくしてなにか思い出したのか杏は貢の顔を見た。 「いつも私とママのごはんが違うのはどうして?」 子ども用にはパンだったりメニューが変わるが、ママは味噌汁とトマト、あとはカレー味の何か。 「ママのは酒が早く抜ける献立。杏のはかわいくなるおかず」 後半は冗談だったが、杏は真面目に受け止めたようだった。
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