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「あ~カレーだ!」
寝ぐせのひどい岳がうれしそうに声をあげた。
「これはお昼か夜に食べて」
「やだ!今食べたい」
「じゃあ小さいお皿持ってきて」
美加が戻ってきて座る。貢はそこにウコンの瓶を置いて、岳が持ってきた皿にごはんとカレーを少し盛って手渡した。
貢の素早いさばきに杏の目が追いつかない。
「おいしい!もっと食べる」
岳はスプーンを握りしめながら足をバタバタさせて喜んでいる。
「岳、楽しみは取っておきな」
それをさらっとかわしつつ、「ルーだけでも食べれる?」と貢は美加に聞いた。
「どうしてルーだけなの?」
杏は不思議そうに聞いてくる。
「香辛料がお酒を飲んだ体に効くんだ」
「へえ…」
杏が知識を吸収している間に、貢は大きいグラスに薄い塩水を作っている。
「…ダメだわ」
「全部吐いといで」
グラスを持って美加はまたトイレに行った。
「杏、気にすることないから、ママはほっとけ。介抱なんかしなくていいから」
かばんを肩にかけて貢は次の仕事に行く準備をする。
「一日くらい洗濯しなくても風呂入らなくても死にはしない。杏の好きなようにすごして宿題だけはやっときなよ」
大人の余裕を気取って部屋を出たつもりだったが、不安そうな杏の顔が目に焼きつく。
分刻みに並ぶ着信履歴を眺めて貢はため息をついた。
折り返そうとした時またかかってくる。
「…もしもし」
『まーた家族ごっこ?お前も大変だねえ』
寝不足の頭に、無駄に明るい男の声がガンガン響く。
「俺今日徹夜明けだよ」
『じゃ、俺んとこで寝てもいいよ』
「…」
貢は無言で通話を切ったが、どうせ下にクルマをつけて待ち構えているだろう。
大金払う客じゃなかったらとっくに切ってる。
娯楽に金を湯水のように使う人間がいるから美加のようにほぼボランティアな事もできる。
エレベーターで下に降りると予想通りひとりの男が自分を待ち構えていた。
「急用じゃないんだったらメールにしてよ神楽」
眠気を振り切って貢は悪態をつきながら男に近づいていった。
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