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どこか
夢も見ずただ眠り込んで、どれくらいたっただろうか。
カーテンの向こうは暗い。
寝すぎたのか不自然に重い身体を起こして、キッチンに向かって冷蔵庫を開けてジュースを取り出しながらTVの電源をつける。
ニュースの内容と表示される時間を見て1日は眠っていたことを認識してスマホを取りにいく。
ほとんど神楽からの連絡が表示されていて、珍しく留守電が入っていた。
内容は確認しないで折り返すと、まるで待っていたかのようにすぐに出る。
『貢、起きたのか?』
神楽は少し早口だった。
「…うん、かなり寝てすっきりした」
『祥子さんから事情は聞いた。お前があまりひどい状態だったら引きずってでも病院に連れていってほしいと頼まれてるよ』
神楽の言葉に若干の違和感を感じながら祥子が動いてくれたことは素直を感謝したかったが、頑固な思想はそう簡単には崩れない。
「妻」という束縛をしたつもりはなかった。
『お前のそういう所が嫌いだよ』
勝手に人の頭に中を覗き込んだ言い方に、その理不尽さに腹がたつ。
「そんな事言われる筋合いはない」
通話を切ろうとするとスマホの向こうで『切るな』と大声で止める声がする。
重い。
「…俺さ」
『なに』
「誰もいない所に行きたい」
『涅槃にでも旅立つつもりか?俺はついていかないぞ』
恐ろしく低い声で言う神楽につい笑ってしまった。
「違う。旅行に行きたいなと思って」
言葉だけでは空気感が伝わらないのか神楽が大袈裟に受け取った事に驚いてしまって、無理に明るく答えた。
『今から行くから居留守するなよ』
こちらの返答も聞かずに通話が切れた。
今の精神状態でも神楽と会うことには心のハードルは低かった。
いつの間にそんな近い関係になったのか、絡まった糸をほぐすのが難しいように、もうわからない。
ハサミで切るのが一番楽な方法だな、なんて考えているうちにチャイムが鳴った。
今がその瞬間になるのかもしれない。そんな予感がした。
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