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僕らがアオを探した日
色は嫌いだった。
練習着もスニーカーも、靴下の色だってそう。
チームメイトたちはみんな「自分のイメージカラー」なんてものを決めて、その色のバッシュを買っていたりしたけれど。
美術品じゃないんだ。機能性で選べばいいだろうに、と僕は思う。
なんたって、世界は下品な色彩で溢れているんだ。
死んだ後に飾られる弔花だって、色鮮やかなのはゾッとする。
『そんなの普通じゃない』
僕の話を聞くと、みんな冗談半分に笑う。
その度に思うんだ。
──普通って、なんだろう?
何でも周りと同じじゃなきゃ、白い目で見られる。
なんて生きにくいんだ、と思う。
そんな普通なんて、ただ存在しない悪者を作るための儀式でしかない。
大勢を都合よく管理するための、タグでしかないんだ。
「こうたーい、青!」
ブザーが鳴って、間延びした号令が僕をコートに招く。
「シャス!」
短く叫んで、コートに駆け出した。
機能性で選んだ地味なバッシュが甲高いスキール音を奏で、ダボついたゼッケンが夏の温い風に踊る。
蝉時雨を微かに含んだ風を置き去りに、リング下を目指す。
「浩二、交代」
「やっとスかー、22番おなしゃす」
「オッケ」
顧問に指示されたメンバーと交代して、伝えられた敵のディフェンスに着く。
真夏のバスケは暑くて嫌いだ。
みんな例外なく汗を滝のように流すし、否応なく触れる敵の肌はナマズのよう。
特にリング下。体を張ってプレイするセンターマンは、どう転んでも敵と接触する。
センターを任された僕は、自分の身長を恨むしかない。
「おねがいします」
軽く頭を下げた瞬間、審判がコート外に立つ敵の六番にボールを渡した。
受け取った選手がボールを構える。
弾かれたように走り出す敵チーム、それを追いかけ、時々先回りする僕ら。
目線を読み合い、戦術を駆使し、一瞬のスキを突く。投げ入れられたボールが敵チームに渡った。
「ディフェンス!」
大会の時とは違って、バラバラな声援が体育館に響く。
敵のシューターがパス。ボールは僕が着いた二十二番へ。
1on1。
右手のゆるいドリブル。
カビ臭い床を叩く音が木霊する。
僕の左側と、リングを交互にさまよう視線。
黄色のバッシュが、短く鳴いた。
「──ッ」
ドリブルからシュートへ。
最短の動きで形作られたフォームに、体が前につんのめった。
足のグリップを最大に活かしてジャンプ。
手を高く伸ばし、打ち出されるボールを迎え撃つ。
ボールが指先を離れる──瞬間。
「チェック!」
誰かが叫び、僕は掌を思い切り振り上げる。
ブザーの爆音に、蝉の声が消えた。
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