好きなんだから、仕方ない

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 ずっと、天井を見つめたまま。  後悔をならべる夏澄は苦しげで、けれどその肩に手を置いてやることも、できなくて。 「良いじゃないですか、ちょっとくらい大人になっても」  ままならない葛藤を、僕は呑み込まずに突き返す。 「いいんですか? 純粋さもないのに」 「嫌なら戻りましょうよ。夢が若くてがむしゃらだった時に」  僕は不器用で要領も悪くて、おまけに芯が弱い。  それでもそんな僕がウィニングショットを決められたのは、彼女が「愚直にやれ」と背中を押してくれたから。  これは僕なりの恩返しなんだ。 「体と違って、夢は若返れます」  夏澄の小説に目を落としながら言う。  言葉もなく、肩に熱が寄りかかってくる。 「やれますよ、僕らなら」 「うん、そうですね」  言いながら、夏澄が頭をすりつけてくる。 「一つだけ、いいですか。それさえ答えてもらえれば、もう面倒はないですから」  沈黙。  めくったページの音が、肯定になった。 「私と、別れなくていいんですか?」  僕らが一緒になれた、ただそれだけの理由。  僕らが一緒にいてはいけない、たった一つの理由。  それでも僕は、目を逸らす。  お気に入りのページに折り目をつけるように。  大好きな夏澄と、もっと一緒にいたいから。 「好きなんだから、仕方ないですよ」  テキトーにめくった、ページの先。  お互いの恋心から逃げ続けた二人が、夜の国道沿いでキスをしていた。
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