研修所は山の上

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次に見た時、ドアの隙間は30センチほどに広がっていた。 よいち氏は臆病だ。 驚いて声も出なくなった。 彼にはどうにも出来ず、黙って見守るしかない。 ドアの隙間から、何かが入って来た。 足音も聞こえず、ノックもない。 人の姿をした侵入者は、ドアのすぐ脇に立っていた。 壁に貼られた、エチケット用の鏡の前にいる。 ベッドに背を向ける状態だ。 あれほど怯えていたくせに、よいち氏は拍子抜けしていた。 鏡を覗き込んでいる人物の後ろ姿は、同期の「AO」だ。 短髪の後頭部、白いTシャツを着た肩から背中の感じ。 間違いない。 思わず、安堵の吐息が漏れそうになる。 それを、ぐっと飲み込んだ。 夜、ノックもなしに他人の部屋に入ってくるのは。 よいち氏は、「AO? どうした」と、声をかけた。
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