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しばしの沈黙の後、観念したかのようなため息がスマホから漏れる。
『この前、ちょっと実家に寄ったんだ。その時、太一くんも来ててさ。顔見たらなんか……つい』
「なんて言ったんだ」
『僕、いま猫又坂にいるよって。すぐ顔色が変わった』
太一は俺の家を猫又坂と呼んでいた。一緒にこそ暮らさなかったが、当然場所は知っている。
今度は俺の口からため息が出た。
「じゃあ、……彼女って」
『たぶん幼なじみの美保の事。僕が女に興味ない事知ってて、今でも仲良いから。ウチの親、昔から付き合ってると思ってる』
「それを信じろと?」
『え?』
本当は九割くらい納得してる。でも万が一という思いも拭えない。
『びっくり。疑うの?』
「お前は嘘つきだからな」
『は?』
だから、こんな言い方になってしまう。
『ふーん……じゃあいいです、別に信じなくても』
眠らない街の片隅で、渇いた七瀬の声だけが俺を取り巻く。
『で、どうするんですか。彼女持ちがバレた僕はもう要らない?』
「……」
自分への嫌悪も手伝って、言葉が出てこない。
『じゃあこうしようよ。今日の真夜中、0時までに初音さんが帰ってこなかったら出ていく』
「は!?」
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