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腕時計を見ると11時半。真夜中まで30分しかない。
『1秒でも遅れたらそれでおしまい。僕は去る者は追わない。それも運命だと思うから』
それきり通話はプツリと切れてしまった。
あまりに突然、一方的に立たされた岐路にただ呆然とする。
(あのバカ、突拍子もない事を。電車じゃ間に合わねぇ!)
俺はちょうど巡回してきたタクシーに飛び乗った。
七瀬と暮らして三ヶ月。思えば女の影がチラついた事なんか一度もない。あいつの毎日は完全に俺優先だ。
(……今回は折れてやるよ)
太一に会って何か不安になったのか。俺との関係をアピールしたのもその表れだろう。だったら伝えてやらないと。
(俺は、もうとっくにお前に追いついてる)
「お客さん、なんか事故みたいですね。全然動かねぇや」
見ると自宅近くの幹線道路でタクシーが立ち往生している。
「じゃあここで降ります!」
転がるようにタクシーから降りて俺は走り出す。猫又坂の緩やかな坂道が地味にキツイ。
(クソ……今何時だ。あと5分!?)
駆け込んだマンションで、エレベーターがタイミング悪く上へと昇っていく。
(待ってたら間に合わない!)
俺は外階段を夢中で駆け上がった。七階まで何度も折り返し、息も絶え絶えに辿り着いた家のドアを開け放つ。
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