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瀟洒な教会のある結婚式場。その喫煙室で先に一服していたのがヤツだった。
「僕、新婦の七瀬 椿の弟なんです」
「え、そうなのか。俺は高校ん時、新郎の速水と同じバスケ部で」
社交辞令の会話に加え、成り行きで名刺まで交換する。
歳は俺より三つ四つ下、柔らかい色の髪に通った隆鼻。長い睫毛の目元はどこか幼げで、おっとりした美少年という印象。
(こりゃ、女が放っておかないな)
一方俺は、切れ長な目と薄い唇が『組の若頭』と揶揄される、自他共に認める強面だ。
「太一くんのお友だちでしたか。初音、 柊真さん……わ、社労士さんなんですね」
そう言う彼の名刺には『杏林堂総合病院 診療放射線技師 七瀬 楓』と印字されている。
「俺は勤務社労士だから、ただの会社員だよ」
「ちょっとイメージが……こんなお堅い仕事なんて」
「なんだよ、顔が怖いからか」
彼がプッと噴き出す。
「七瀬くんはレントゲン技師か。放射線とか心配だな」
ちょっと驚いたような顔をした後、彼がふわりと微笑んだ。
「大丈夫ですよ。太一くんもだけど、お友だちも優しい」
実は太一とは三年前のあの日から会ってない。バスケ部のリストから俺を外せなかったのだろう。
「あ、あと五分で受付が始まる。じゃあ僕はお先に。今日は楽しんでくださいね、初音さん」
喫煙室を後にした七瀬を見送るとため息が漏れた。
楽しむために来たんじゃない。
俺は太一に祝福を贈り、一つの区切りをつける為にここにいる──。
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