59人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
「──初音さん! タクシー降りましたよ、家はどこですか」
「文教区……猫又坂」
「はい?」
「……の前。このマンションの703……」
文教区千石に伸びる坂道、通称『猫又坂』。ここに俺の住まいはある。
「703ですね。ほら、しっかり歩いて」
「七瀬……俺、野菜ジュース好き。だからブラッディ・マリー……」
「聞きましたよ、お家にもスムージー常備してるんですよね」
「そうそう……」
「あっ、まだ寝ないで!」
そこでフッと視界が途切れた。
「──……初音さん、水飲みますか?」
薄く目を開けると、目の前に心配そうな七瀬の顔がある。気がつくと俺は自分の家のソファに座っていた。
「大丈夫……送ってくれて、ありがとな。おかげで」
「夜道で寝ゲロにまみれなくて済みましたね」
「はは……。いや、今日一日笑って終われそうだってコト。それにしてもお前、寝ゲロはねーわ……」
俺はネクタイを緩め、天井を仰いで長く息を吐く。
本当に、思いがけず穏やかな気持ちだ。
「……やめてください」
「ん……?」
睨むような目をして、七瀬がソファに片膝をつく。
最初のコメントを投稿しよう!