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叶うなら、永遠に
その日、初めて自分から乙川くんを食事に誘った。
同僚に勧められたダイニングバーに赴く。上質な料理とお酒に、お喋りもよく弾んだ。
なにも言わなくても、彼の部屋へ行く流れになった。
電車を降りて駅を出れば、私たちはいつもどおりに手を繋ぐ。さほど酔っているわけではなかったが、私は会話のなかで機嫌よく笑った。
部屋に入ると、コーヒーと紅茶でひと息つくのが通例だ。
けれど私は、キッチンに向かう彼を引き止めるように抱きついた。乙川くんは驚いたものの、こちらの意を汲んで抱擁してくれる。
「甘えたですね」
「おかしい?」
「嬉しいです。こんなふうに必要とされるのが」
心に何本もの針が刺さる。それをいっとき忘れたい。
私は相手の胸に頬寄せた。
「今日あったかくてすこし汗をかいたから、シャワー借りていい?」
「ええ、どうぞ」
私は意を決して顔を上げ、にっこり笑いかけた。
身体を丁寧に洗って浴室を出る。
洗面所にある引き出しのひとつに、私のパジャマや下着が置いてある。ショーツだけ履き、バスタオルをまとって部屋に戻った。
そういう姿を予想していなかったらしく、乙川くんが顔を赤くして視線を落とした。
そばまで行くと、相手がソファーから立ち上がった。
「僕も浴びてきます」
横を通りすぎるとき、私は彼の袖をつかんだ。
「独りにしないで」
「……僕はそばにいます」
相手がこちらに向き直ってふわりと抱きしめた。
キスをして舌を絡ませ、互いの身体に触れる。彼の手がバスタオルの折り重なった部分をゆるめて、はらりと床に落とす。
ショーツのみの私を眺め、乙川くんはまぶしそうに目を細めた。
大きな手のひらが繊細な細工に触れるように、お腹や腰をさすり、首筋や鎖骨も撫でる。けれどなぜか、胸には接してこない。
「ねぇ、胸も触って」
「……それをしたら、若菜さんが雪みたいに消えてしまいそうで」
私はドキッとしたが、彼の手を自らのふくらみに導いた。
「ほら、消えない」
乙川くんが遠慮がちに柔らかさを確かめる。私が甘い声を漏らすと、彼は唇を押しつけた。
ベッドに移動したあと、胸の先端を舐められつつ、ショーツの上から大事な場所をなぞられる。
私は敏感にビクビク跳ねる。
下着を脱がされ、開いた足の中心に顔を埋められたら、のけぞってみだらに喘ぐことしかできなかった。
やすやすと達した私を、乙川くんが愛しげに抱きしめる。
そのあといったん離れて服を脱ぎ、避妊具をつけた。
私はけだるい身体を叱咤して起き上がる。
「桂吾くんが寝そべって」
乙川くんは戸惑いつつ寝転がった。私は馬乗りになって、腰を沈めながら彼のものを呑み込んだ。
いつもよりピタリと繋がっている気がする。
私の身体がどうしようもなく火照っているから?
「私の中、桂吾くんでいっぱい……」
「僕たち、ひとつですね」
結ばれた場所から、心まで混ざり合う錯覚に陥る。
想いがあふれて彼にキスをした。
そして、恥ずかしさをかなぐり捨てて腰を揺らめかす。相手が熱い吐息を漏らし、感じている。それを目にすれば、おのずと動きは激しくなった。
責めているのに、快楽に苛まれる。そのまま彼の上で乱れ、さいはてまで駆け抜けた。
仰向きになった私の中を、乙川くんが二本の指でかき回す。そこはすっかり濡れそぼって、いやらしい音を立てつづける。
彼の指がどんな動きを加えようと、過敏になった身体は悦ぶ。
気持ちよすぎて、「いや、いや」と腰をよじる。そのまま思いきり達したために、私はシーツをぐっしょり濡らしてしまった。
こんなことは初めてで、私が絶句していると、乙川くんは尋ねてきた。
「苦痛ではありませんでした?」
「うん。でも……」
「責めすぎました、すみません」
行為の仕方によっては女性の身体がそういう反応をすることもある、と説明してもらい、私はホッとした。
彼がベッドから下りてシーツを取り去る。
布団までは染み込んでいなかった。
このあとどうすればいいんだろう、と私は戸惑う。
乙川くんが慈しむようにキスをし、緊張を解きほぐそうと、ゆっくり愛撫を深めていった。
私の体内にともる灯をじっくり煽る。
何度も絶頂に至ったのに、全身が期待に疼く。
乙川くんがこちらを四つん這いにして、後ろから貫いた。
ギシギシとベッドがきしむ。
もう相手のことしか考えられなかった。
叶うのなら、永遠にひとつになっていたい。
私は責めを受け止めながら、自らも腰をくねらせ、振り向いてキスをねだり、相手の荒々しさに身悶えした。
限界の瞬間をともに迎える。
息が乱れて手足に力が入らない。甘い余韻に浸る。
大きな身体にしっかり抱擁されれば、身も心も満たされた。
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