あなたを手に入れてしまったら

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あなたを手に入れてしまったら

 唇を重ねて舌で求め合うと、互いの息が弾んでくる。  乙川くんが間近から見つめて、こちらの頰を撫でたり髪を梳きながらキスを繰り返した。  そのあと、耐えがたそうに吐露する。 「糸瀬さん……僕もうキスだけじゃ」 「いいよ、して……」  彼は私を抱きしめて、共にソファーに倒れ込んだ。たくましい身体がこちらの胸を押すが、体重をかけすぎないよう気遣っているのがわかる。  乙川くんがため息をついた。 「あなたに触れたかった」  彼はこちらの耳を食み、キワを舌でなぞる。  同時に肩から腕を撫でていく。  ゾクゾクして、私の身体が小さく跳ねた。 「んんっ」  反射的に口元を手の甲で押さえると、相手が熱っぽく要求した。 「声を聞かせてください」 「……恥ずかしい」 「そんなふうに声を押し殺す姿もそそられます」 「どっちでも願望どおり?」 「あなたがどう振る舞おうと陥落する」 「だったら、乙川くんを縛りつけてお預けしようかな」 「……あんまりです」  珍しく抗議する相手に、私はふふっと笑った。 「そんなことができないよう、腕の中に閉じ込めて」 「夢が醒めるまでは離したくない」  こちらの腕を辿る手が、やがて遠慮がちに胸を包む。初めて経験する女子を気遣うみたいに、おずおずと揉んだ。  私がのけぞれば、相手の舌はこちらのうなじを這う。  大きな手がぎこちなくプラウスのボタンを外し、キャミソールの肩紐を下ろした。  そして胸の谷間にきつく吸いつく。  口が離れたあとを窺うと、紅いしるしが刻まれていた。  相手が悔いるような顔をする。 「すみません。つい……」 「もっとつけて」  乙川くんは口を引き結んだあと、いくつもの痕をつけた。  私の胸をさらけ出させ、じかに揉み、先端に吸いつく。私は甘い声を上げて肩をくねらせた。  熱い手がこちらの身体をまさぐっていく。  彼が「糸瀬さん……」と絞り出すような声で呼びかけたあと、ショーツの上からそっと秘部に触れる。  丹念になぞりつつ、尋ねてきた。 「気持ちいいですか?」 「分かってるくせに……意地悪」 「いじめたくもなります」 「あんまりひどいと、あとで知らないから」 「糸瀬さんにも溺れてほしい」  タイミングよくキスをされると、なじる気持ちが消滅する。 「もっと……」 「先に僕の理性のほうが切れそうです」  彼の手が下着の中へ侵入し、とうとうじかに触れられた。  愛でられた身体がとろけている。私は消えたい心境で首を左右に振り、両手で顔を覆った。  乙川くんが心配そうな声をかけてくる。 「嫌なら……やめましょうか?」  一瞬、『そうしたほうがいいの?』と自問した。  即座に否定する。寒いのは、嫌。  私は相手の袖をつかんで懸命に見上げた。 「軽蔑した?」 「まさか。嬉しいし、たまらないです」 「いろいろしたい?」 「……本当の気持ちを教えてください。僕を止められるのは糸瀬さんだけです」  私の本当の気持ち……。泣きたくなる。  今夜はそばにいて。 「乙川くんに包まれて、おかしくなってしまいたい」 「あなたのためなら、なんでもやってのけてしまう。いいことでも悪いことでも」  そうして私を抱きしめる。  私は感じる場所への丁寧な刺激に耐えきれず、昇りつめた。  乙川くんがしみじみつぶやく。 「糸瀬さんの熱い表情が見られるなんて」 「どこかに隠れたい」 「さらけ出してください」 「もう……好きにして」  すると彼が苦笑した。 「そう言われるのがいちばんつらいです」  埋め込んだ指で責め立てられ、私は全身を高ぶらせた。  グッタリして目を閉じていると、乙川くんが低い声を漏らす。 「あなたには勝てるはずがない」  チラリと見ると、彼は仕方ないと笑った。 「糸瀬さんになら、それも喜びです」
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