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羽根の音が煩かった。扇風機の羽根が回る音だった。
呆然と見つめ合う私たちの間には扇風機の音しかなかった。
真夏の日。私たちは秘密を共有した。
「埋めちゃおう!」
「うん!」
私たちの意見は一致した。
幼さ故の浅知恵だった。
庭の何処かでけたたましく鳴くセミの声に混じって屋敷の中からは読経が聞こえる。
「まだ埋まってるかな」
「探してみよう。この辺だから」
「うん」
子供用のシャベルで楠の根元を掘ると、箱が出て来た。
「あれ? こんな大事に埋めた?」
「ううん、慌ててたもん、袋にすら入れてないよ」
箱を恐る恐る取り出し蓋を開け、私たちは固まった。
手紙が入っていた。
「あなた達姉妹が、正直に、清く生きてくれますように。
お父さんお母さんには、内緒にしましょうね。
あなた達の幸せを願うおばあちゃんより」
私たちが壊したのは、おばあちゃんが大事にしていたお抹茶茶碗。
埋められていたのは秘密を凌駕する優しさだった。
読経が聞こえる。
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