真夏の夜に君を願う

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エリートキャリアウーマンとして働く母は、 この夏、ひと月程の海外出張が入った。 普段の一週間程度の出張であれば、私になんの気も留めない母だが、さすがにひと月ともなると心配になったらしい。 そこで私は、田舎に住む父親に預けられた。 父は、この町で町医者として働いている。 母と一緒に東京に住んでいた頃は、大学病院に勤めていたが、離婚をきっかけにこの町に転職したらしい。 母曰く、" 東京を逃げ出した "という。 (私はお母さんから逃げ出したんだと思う…) 何時間ぶりかに立ち上がって、冷たい水を身体に流し込む。 「リコーー、ただいま。  お昼食いに帰ってきたぞ〜」 父はなにやら美味しそうなお弁当を得意げに持って帰ってきた。 7年ぶりに再会した父は、とても温厚で人当たりがいい人間だった。私にどう接していいか真剣に悩んでいるところを見ると、少し不器用なのかな?と感じる。 母から" 東京から逃げた人 "と聞かされてきた私は、いつの間にか父を下にみてしまうようになったが、そんな考えを忘れさせるほど、父はいい人間だった。 そんなこと父には話さないのは、当たり前のことだ。
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