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N-Friendsをさわらずに何日か過ぎた。
新しいアプリを試したりしたけど、何かが違って続かない。
やめられない癖のように、結局またN-Friendsを開いた。
驚いた。
『大塚のおしゃれカフェでバイトしている人』
そんなトーク画面の案内が現れていた。
ずっと前に僕が作って誰一人集まらなかったテーマだ。
まさか俊? なんて嫌な考えもよぎったけど、あいつのことは「不可」設定しているからあいつが立ち上げたトークなら案内は届かないはずだ。
考えられる可能性は一人だけだった。
「遅いよ」
そう言って笑ったのはやっぱりミカだった。
「なんで……」
彼女の顔を見れた嬉しさ半分、不安が半分。
騙していたことを罵られるのだろうか。
彼女に話したことがすべて嘘だと思われているのだろうか?
「んーとね。とりあえず、私のバイト先は明治神宮前じゃありません」
「え?」
「大塚。ナオキくんが言っていた『大塚、おしゃれ、カフェ』のタグ見たことあったけど、思いっきりスルーした。ごめんね、ちょっといい格好したくて嘘ついた」
「大塚……」
思わず窓の外に目をやってしまう。実家の最寄り駅だから大塚でバイトをしている。そんな近くにミカがいたなんて。
「ね、みんなそんなもんだよね。普段の自分よりもちょっとだけ良さげに見せてる」
ミカがまっすぐに画面を、僕を見る。
「……ごめん」
「んー。だから、私もおあいこだって。あれ以来、ナオキくん全然現れないから心配してた」
強制退出させた本人が言うか?
そう思ってちょっと顔をしかめてしまった。
「あ!やっぱり……。言っとくけど、私、ナオキくんを強制退出させてないからね! あのシュンって人の方がうんと感じ悪かったよ。だからあの子を退出させたかったんだけどさ、3票あつまらなかったから、なんか嫌で自分から抜けちゃった」
ミカが抜け、残り3名になった瞬間に僕の強制退出が決まったのか。
ミカは関係なかった。
そうわかった瞬間、ホッと体の力が抜けた。
「そっか、なんだ…、ははっ」
「……大丈夫?」
突然笑い出した僕をちょっとだけ気味悪げに、だけど結局はミカもつられて笑い出した。僕らの持ち時間がほとんど終わるまでそうやって笑い続け、ようやく気づいた。あぁ、そうか。僕はこの子とこうやって笑ったり、真剣な言葉を交わしたりしたいんだな。
「え!? そろそろ時間……、じゃぁ、また」
あっという間の時間に驚くように、ミカがそうつぶやいた。
トークの終了まで、あと1分。
「うん。じゃぁ」
もう1度こうやってアプリ上で会えばいい。
それがいいのはわかってる。
だけど。
トーク終了まで、あと30秒。
思わず僕は叫んでいた。
「あと5分! あと5分だけでいいから話さない?」
あははっ、と爽やかな笑顔で彼女がうなずいた。
「5分でも10分でも、好きなだけ話そうよ。大塚駅で待ってるよ」
多分、人生で一番早く部屋から飛び出して、「ちょっとー、ご飯はぁ?」と呼び止める母親に手を振って、人生最速のスピードで駅まで走り出した。
気遣いなんて疲れることしたくない。
近況をわざわざ話すのなんて面倒臭い。
僕を知ってるつもりでうるさく言ってくるやつらなんていらない。
興味のないことを長々聞かされるなんてまっぴらだ。
だけど、そんなことを全部吹っ飛ばして、あとたった5分だけでもいいから話していたいと思わせる感情が芽生えることがある。
Not Friends。
友達ではない。
だけど。
あと5分で、彼女の笑顔にまた会える。
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