0人が本棚に入れています
本棚に追加
少年と旅人
『人を殺していい国なんて有り得ない』
隣の国の人は口を揃えてそう言った。
『本当に人を殺していいんだな?』
この国を初めておとずれた旅の人は皆、笑顔でそう言った。
「初めまして、君はなんでこの国から出ないの?」
「旅の方ですか? 僕は人を殺さないといけないからです」
大きなリュックを背負って、帽子をかぶったおじさん。
「人を殺さないといけない?」
「そう。僕は旅の方だってこの国の住民だって殺す時は殺す。」
「じゃあ、おじさんも殺されちゃうね」
「それはどうかな? 別に悪いことしなければ僕は殺さないし」
「そうなのか。ありがとう、また会った時は話をしよう」
「ええ」
おじさんは宿屋へと入って行った。
優しそうな雰囲気だったけれど、あの人も人を殺すために来たのだろうか?
もしそうなら僕はあの人を殺さないといけない。
「ユウ! 帰りましょ?」
「そうだねリサ」
17歳、職業は殺し屋。
リサは14歳で殺し屋になった。
この国はおかしいとよく言われる。
人をこの国は殺していいことになっているからだ。
小さい子から大人まで。沢山の人が殺し屋を名乗っている。
僕もリサも12歳で殺し屋になった。
勿論、僕らを育ててくれた人も殺し屋。
「難しい顔してどうしたの?」
「いや。今日旅の人に会ってさ」
「へえ。また問題を起こさなければいいね」
「そうだね」
リサが差した問題とは、一昨日のことである。
僕は背が少し小さいからよく、実際の歳より若く見えるらしい。
僕のことを知っている大人達は子供扱いしないけれど、僕の事を知らない旅人とかは良く子供扱いをする。
それが事件を招いたのだ。
子供だからと油断していた旅人は突然ナイフを僕に突き出してきた。
「怖いか!今から俺はお前を殺すぞ!」
高笑いをしながら僕に近づく。
「また旅人か」
「脅されてる子ってもしかしてユウくん?」
「ユウを選ぶなんて」
「おいっ! 誰か旅人さんの為にユウの事を教えてやれ」
「残念だな旅人さんよ。お前が相手にしてるのは立派な殺し屋だよ」
騒ぎを聞きつけた広場の人は集まっているが、相手が僕だと知り呆れている。
その言葉を聞いた旅人はナイフをしまい、立ち去ろうとした。
「お兄さん。相手が悪かったわね」
聞き慣れている少し高めのトーンの声と銃の音が聞こえた。
たまたま通りかかったリサは、旅人を撃った。
そして、野次馬は消えていった。
またいつもの値引きをお願いする声や、旦那さんの愚痴の声などで広場は賑わった。
僕らは確かに殺し屋だ。けれど普通の殺し屋とは少し違う。
この国の殺し屋にも幾つか種類がある。
欲望のままに殺す、自称殺し屋。
誰かに頼まれて殺す、殺し屋。
そして僕らは、自称殺し屋や、この国で悪さをする人を殺す殺し屋。
そして、旅人の8割りは人を殺したくてこの国を訪れる。
この国から出国できる旅人は少なく、皆殺されてしまう。
何故かって?
僕らが殺すからだ。
この国で悪さをした旅人はみんな殺す。それが僕らを育ててくれている人の決まり。
「ただいま戻りました!」
「あらリサ。今日の夜ご飯は何かしら?」
微笑みながら話すのは、僕らを育ててくれているナナさん。
僕らの事を小さい頃から育ててくれ、殺し屋としての常識などを教えてくれている。
「ユウ? 玄関で突っ立ってどうしたの?」
「なんでもないよ」
リサの美味しい手料理を食べ、1日を終えた。
最初のコメントを投稿しよう!