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「やあ、また会ったね」
「こんにちは、おじさん」
行きつけのカフェで読書を楽しんでいる時に声をかけられた。
「昨日から君の事が気になってしまって。良かったらなんで人を殺すのか教えて欲しいな」
口元は笑顔だったが、目が笑ってなかった。
「良いですよ。きっかけはリサという一緒に暮らしている女の子です。当時リサが10歳の時に、旅人夫婦の娘としてこの国に来ました。」
「今は何歳なの?」
「今は14です。それでその夫婦はリサの事を殺そうとしたんです。きっと旅をするのに子どもは邪魔だったんでしょう。この区には人を殺すことを許されている。だからこの国を選んだと思います。」
「それで夫婦はどうしたんだい?」
「親に捨てられ、引き取ってくれた僕の親代わりのナナさんと買い物途中にそれを見かけまして、夫婦をとめたのです。とめにはいったナナさんを振り払い、また夫婦はリサを殺そうとします。」
「酷い親だ」
「そうですね。ナナさんも殺し屋ですが、買い物をしていたという事もあり、両手が荷物で塞がっていたんです。だから僕がやるしかないと思ってその夫婦を殺しました。」
僕の話を表情1つ変えないで、真剣に聞いてくれるおじさん。
「そしてナナさんはリサを引き取り、今に至ります。僕もリサもナナさんも殺し屋にもです。依頼されたら殺しますし、罪なき者を殺そうとしていたら、また罪なき者を殺した人も殺します。どうですか? 僕が怖いですか?」
僕の質問に「全然怖くない」と言ってくれ、少し安心した。
「それがきっかけです。あの時、自分を殺そうとしていた親の死体を見て、リサは泣いたんです。大好きだよって言って」
「子供には辛い別れだね」
「そうですね。けれど僕は彼女の親を殺した事を後悔していませんし、彼女も誰かが殺してくれないと自分が死んでいたという事を自覚しているので」
「そうなんだ。」
おじさんは悲しい顔をしていた。
本当にこの人は優しい人だ。
「それを気に、僕は殺し屋になろと思いました。普通の殺し屋とは違う、悪い奴らだけを殺す殺し屋に。特に、小さな子供を傷つける人は許さない。親に捨てられるのはリサや僕だけで十分。」
「君は今幸せかい?」
「とっても幸せですよ。これじゃおじさんの知りたかった人を殺す理由の答えになってないですね」
「十分答えになっているよ」
「それは、ありがとうございます。最後に、自称殺し屋は注意してください」
「自称殺し屋?」
「はい。欲望のままに人を殺す人のことです。それと、旅人でも人を殺したくて入国する人が居るので、そちらも気をつけてくださいね」
「ああ、わかったよ。最後に一つだけいいかな?」
帰ろうと立ち上がっていた僕は再び、椅子に座る。
「なんですか?」
「君は頼まれたら人を殺してくれるのか?」
「ええ。これでも一応殺し屋ですし」
「ならひとつ、頼まれてくれないか?」
「いいですよ。誰を殺します?」
数秒の沈黙の後、「君の目の前に居る、僕の事を」と答えた。
「理由を聞いても?」
「僕の妻は内戦に巻き込まれて死にました。」
「まさか、あなたは東から?」
「はい」
東にある国々は5年前に終戦を迎えたが、反対勢力などと政府がぶつかり、今でも内戦が行われている地域がある。
市民が巻き込まれることの多い内戦。政府と反対勢力の喧嘩になぜ市民が巻き込まれなければいけないのか。
誰もがそう思うだろう。
「妻を失った僕にはもう生きる理由がありません。自殺を考えましたが、どうしても怖くなってしまって。それで旅に出て、殺してくれる人を探しました。」
「それで見つからなくてここの国へ?」
「はい。人を殺すのを許すこの国なら僕を殺してくれると思って。だからお願いです。僕を殺してください。あなたみたいな優しい人に殺されるのが1番の望です」
「そうですか、それは残念。僕はあなたと仲良くなれると思ったのですがね」
そう言って、カバンに入っていた銃を取り出す。
勿論このカフェにいる人たちは銃を見ても驚かない。
いつも通りにお茶を楽しんだり、お喋りを楽しんでいる。
「では、今かはあなたを殺します」
そう言って銃口をおじさんに向ける。
目をつぶるおじさん。
やはり、殺されるというこも怖いもの。
おじさんの人間としての感情はまだ健在。
「バーンッ!」
そう言うとおじさんの目が開いた。
「僕は今、おじさんを殺しました。おじさんの弱い心を。これからは強い心を持ったあなたとして生きてください。見た感じ、元軍人ですか? 雰囲気と銃を見ても驚かなかった。そうですよね?」
「ああ、そうだ。もし僕が一日早く帰っていれば妻は助かったかもしれない」
「やはりそうですか。いいですか? よく聞いてください。奥さんはあなたの心の中でしっかり生きています。浮気される心配もありませんし、変な男に捕まる可能性もありません。」
「そうだな」
苦笑いをしているおじさんを前に話を進める。
「あなたが死んでしまったら奥さんも死んでしまいます。どうです?それでもまだ死にたいですか?」
「いいや。辞めとくよ」
「身体が灰になる前に気づいて良かったね」
「ありがとうございます」
さて、このおじさんをどうするか?
「1つ提案なのですが、僕たちと一緒に暮らしません?あの家には現在男は1人で気まずいときがあるから一緒に暮らしてくれたら嬉しいです」
頼み事とかはあまりしたことがなく、少し顔が赤くなるのがわかった。
「僕は喜んで。けれど、皆さんは大丈夫なの?」
「そこは説得します。それに元軍人なら殺し屋に向いてそう」
「それはありがとう」
会計を済ませ、外に出るとやけに日差しが眩しかった。
「名前はなんて言うんですか?」
「ああ、自己紹介まだだったね。僕の名前は佐藤弘樹。」
「サトウヒロキ? ロキが名前?」
「ヒロキが名前。よろしくね」
「発音が少し難しいね。僕はユウ。こちらこそよろしく」
頼まれていたりんごを買いに市場を目指す。
「ヒロキは何歳なの?」
「32だけれど?」
「そこまでおじさんじゃなかったんだね」
「そうだね。質問いいかな?」
「ヒロキは質問が多いね。まあいいけど」
「なんで、子供でこんなに優しいユウが人を殺すの?」
「僕は優しくないよ。ただの正義感かな?自己満足から生まれ正義感。」
「正義感か。まだ子供なんだし、今からでも遅くは……」
僕はきっと笑っていた。だから言うのをやめたんだ。
「悪い子はお仕置きしないとね?」
「人が死んでもかい? この国が人を殺していいのはわかってるけど……けど、君が殺す必要はないと思うよ」
「そうだね。僕は人を殺す理由なんてないのかもしれない。でも覚えておいて?」
「それでも僕は人を殺すよ」
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