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目が覚めたのは六時前。俺は外の景色を確認してから今日も三国志に手を伸ばす。曹操に呂布に孫堅。次々と英雄が現れる。英雄たちの言葉もまた俺の体に刻まれていく。お気に入りは乱世の奸雄曹操。劉備もいいけど、俺はやっぱり曹操がいい。
孫堅は舞台から姿を消して、息子の孫策が現れる。物語の中、いくつもの英雄が散っていく。それでも最後は劉備が勝ち残るだろうなとどこか斜に構える俺がいた。
「マジかよ……」
俺がそう呟いたのは呂布の最期の場面。味方の裏切りで最強の呂布は処刑された。あんなに強い英雄がこんなあっさり終わるなんて……。
そこから俺はますます三国志にのめり込んでいく。その空気を壊したのはやはり母さんだった。
「拓馬、明美ちゃんから電話だよ?」
「はいはい……」
三国志に栞は挟んで固定電話に向かう。明美から今夜の花火大会一緒に行かないか?との誘いだったが俺はあっさりと断った。
「なんで!?」
「えと、図書館から借りてる本読まなきゃならないから……」
半分本当。半分嘘。先が気になるから花火大会には行かないなんて口が裂けても言えない。
「そうなんだ……」
残念そうに明美は呟いた。
「ごめんね。埋め合わせはするからさ」
電話を切ったあと、母さんがニヤニヤと笑いかけてくるのが鬱陶しい。
「デートのお誘い?」
「断ったけどね」
「どうして!?あなた、そんなモテないのに!?」
本当に鬱陶しい。
「図書館から借りてる本読まなきゃ期日までに終わらないからね」
残念そうな顔をする母さん。腹立つなと思いつつ再び三国志の世界に突入する。
徐庶に諸葛亮に周瑜。赤壁の戦いには心踊ったが、まさか曹操が負けるとは……。曹操推しの俺は複雑に思いながらも読みすすめる。そこで俺はこの三国志は児童文学の三国志だと気付いた。これを読み終えたら児童文学じゃない三国志も読もう。そう心に決めた。
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